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- 2018/09/12 掲載
パナソニックも英国から「離脱」 グローバル企業の本社が容易に移転できるワケ 篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(102)
イギリスから流出するグローバル企業の活動拠点
このニュースは、ベルリンで開催された欧州最大の家電見本市「IFA2018」で、日本経済新聞の取材により明らかとなった。その直後から、CNN、 BBC、Bloombergなど主要メディアのフォローアップ報道が相次いでおり、国際社会も高い関心を示している(Shane [2018]、BBC [2018]、Sachgau [2018])。
イギリスからの企業脱出は、首都ロンドンが圧倒的な優位性を誇る金融界も例外ではないようだ。ブリグジットを機に活動拠点を欧州の他の都市に移転する計画が金融機関の間でも進んでいる。
アメリカの金融大手ウェルズ・ファーゴやJPモルガン・チェースがパリ(フランス)とダブリン(アイルランド)への移転を表明している他、バンク・オブ・アメリカもロンドンからパリへ数百人規模の移転を検討していると報じられている。
歴史的に集積された立地特性を覆す要因は何か?
周知のとおり、ロンドンは世界No.1の国際金融センターだ。トップ10のランキングをみると、欧州におけるロンドンの圧倒的な地位がよくわかる(表1)。2位のニューヨーク(アメリカ)、3位の香港(中国)、4位のシンガポール、5位の東京(日本)と続き、欧州ではチューリヒ(スイス)が9位に入るだけだ。こうした優位性は、歴史と伝統の集積によって築かれた立地特性に他ならず、簡単には覆らないと考えられてきた。ところが、グローバル企業は、経済活動を取り巻く状況次第で、活動拠点の移転を躊躇(ちゅうちょ)なく検討するようだ。
一連の動きからは、長い年月をかけて形成された優位性も、決して盤石ではないことがうかがえる。その一因は、この連載でたびたび指摘している「情報化のグローバル化」に伴う「モビリティの増大」と「フラグメンテーション化」にありそうだ。
本社は情報と人材の動的ネットワーク拠点
本社といえば企業の中枢だ。工場や営業所の移転はあっても、本社は安定した拠点として揺るぎない中枢機能を維持し、軽々には動かないと考えがちだ。だが、実は本社の可動性は意外に高く、状況次第では工場よりも移転を進めやすい。そもそも、マネジメントが主要業務の本社は、内外の情報をタイムリーに集め、知的に処理するホワイトカラーの活動拠点だ。機械や装置などの物的資本が中核となる工場とは異なり、情報と知識と人材こそが価値ある資産だ。
新興国や途上国にまで新技術が浸透する「情報化のグローバル化」により、世界の隅々まで行き渡った情報ネットワーク基盤がマネジメントにも活かされるようになった。そこを活発に流れる情報が、ヒト、モノ、カネの「モビリティを増大」させる原動力となっている。
情報ネットワーク上の情報流通が盛んになれば、「行ってみよう、会ってみよう、見てみよう」とリアルな経営資源の動きが惹起(じゃっき)されるからだ。マネジメントの中枢を担う本社の立地では、こうしたヒト、モノ、カネの円滑な移動を確保することが何より重要だ(連載の第84回参照)。
つまり、本社とは時間と空間と組織の枠を越えて情報・知識・人材が自在に行き交う「動的ネットワークの結節点(ノード)」なのだ。
【次ページ】工場より本社の移転が容易なのはなぜか
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