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金沢は今、交流人口の拡大で活気づいている。北陸新幹線の開業効果が続いているが、さらに見逃せないのは「情報産業としてのツーリズム」という発想だ。インフラ整備にとどまらない、地元ならではの特徴を活かす戦略とは何か。北陸新幹線開業から5年目を迎えた金沢での現地調査をもとに、交流人口を惹きつける「コンテンツ」と「人的ネットワーク」に焦点を当て、インフォメーション・エコノミーの観点から考えてみよう。
交流人口11人は定住人口1人分の経済効果
今年10月、北陸新幹線開業から5年目を迎えた石川県金沢市を訪問し、
交流人口の増加で活気づく様子を現地調査した 。台風19号の被害で北陸新幹線が運休する渦中にあったが、現地調査を通じて、金沢の底力と懐の深さを再認識することができた。
定住人口と交流人口は、「区別はあっても境界は曖昧(篠﨑[2015])」だが、鷲尾・篠﨑(2019)では「日本人実宿泊者数と外国人実宿泊者数の合計」を交流人口と定義し、地域別の分析がなされている。
それによると、石川県の人口1人当たり交流人口は7.1人で、京都府(6.3人)や北海道(6.1人)を上回り、全国47都道府県の中で沖縄県(13.6人)、山梨県(11.1人)、長野県(7.2人)に次ぐ4番目の多さだ。
金沢といえば、2015年3月に開業した北陸新幹線の効果に焦点が集まる。確かにその誘客効果は絶大だ。日本政策投資銀行(2016)によると、経済波及効果は678億円で、「インバウンド客が11人増加すれば定住人口が1人増加するのと同じ効果」があるとされる (注1)。
注1:2019年10月16日に日本政策投資銀行北陸支店で行った聞き取り調査による。
今回と次回の2回にわたり、金沢が織り成す歴史の物語りとそれを巧みに活かしたインバウンド観光戦略について、現地調査で得られた情報をもとに解説しよう。
「ストロー現象」の懸念を打ち消す金沢の活況
北陸新幹線の開業で活気づく金沢だが、開業効果で交流人口の増加をすべて説明できるわけではない。大型のインフラ整備は、当初のインパクトこそ大きいが、時間が経つと、ブームが一過性でしぼんだり、「ストロー効果」で人材が流出したりすることもあるからだ。
実際、開業前の地元では、これらのことが懸念されていた。だが現実には、5年目に入った現在も開業来の活気が続いている。
日本政策投資銀行北陸支店によると、初年度の北陸新幹線利用者は926万人で、開業前の在来線特急利用者の314万人から600万人以上増加、2年度目以降も、初年度からの反動減はあったが、858万人→857万人→869万人と予想を上回る水準が続いている。
金沢市経済局観光課によると「ストロー現象は杞憂だった。むしろ金沢に拠点をつくる動き」があるほどだ (注2)。
注2:2019年10月17日の聞き取り調査による。
その要因は何だろうか。「
情報産業としてのツーリズム」という性格が強まっている観光産業にとって大切なのは、交流人口を惹きつける「コンテンツ」とそれを織り成す「人的ネットワーク」の物語(=情報)だ。今の金沢の活況には、こうした要因がうまく働いている。
活況のけん引役はインバウンド旅行者
ここで、金沢の交流人口増加を誰がけん引しているか、確認しておこう。金沢市観光協会によると(注3) 、金沢市エリアの宿泊者数は、新幹線開業前の2014年は275万人だったが、2018年には330万人に増加している。
注3:2019年10月17日の聞き取り調査による。
これを国内と国外に分けてみると、2014年の275万人のうち外国人は22万人で全体の8%、2018年は330万人のうち外国人が52万人で全体の16%だ。増加したとはいえ、宿泊者のうち8割以上は今も日本人で、外国人は2割に満たない。
だが、この間に増加した55万人の内訳をみると様相が変わる。日本人の増加が23万人なのに対して、外国人の増加は32万人で、寄与率にして約6割に達する。つまり、新幹線開業をはさんだ宿泊者数の変化をみると、活況のけん引役は過半がインバウンド旅行者なのだ。
もちろん、この時期のインバウンド旅行者は、日本各地で増加しており、金沢が特別だったわけではない。金沢も他の地域と同様であり、たまたま新幹線開業の効果で数字が底上げされただけなのであろうか? 仔細にみていくと、どうやらそうではなさそうだ。
【次ページ】「コアな日本ファン」がなぜ金沢に?
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