- 2025/02/27 掲載
米国で見た「AI経済効果」の意外すぎる現在地、「雇用を奪う」はもう古い?
篠﨑教授のインフォメーション・エコノミー(第179回)
アメリカ経済学会で注目だった「AIの経済効果」
2025年1月にASSA(Allied Social Science Association)の年次総会がサンフランシスコで開催された。これはアメリカ経済学会(AEA:American Economic Association)を中心に経済分野の67学会が連合して毎年1月に開催される大型会合だ。5,700人以上が参加登録した今年の総会では、タイトルに“AI”を明示したパネル討論や報告の数が、筆者が確認しただけでも約60にのぼった。どのセッションも比較的広めの会場が用意され、多くの参加者が押し寄せていた。
このほかにも、タイトルには明示が無いものの、アルゴリズム、ML、LLMに関連した数々の研究が報告され、参加者からの相次ぐ質問を交えて、熱心な議論が繰り広げられた。会場の様子からは、このテーマに対するエコノミストの関心の高さが伝わってきた(図表1)。
AEAが総会後にまとめたハイライト集でも、特に重要だと例示された8セッションのうち、AEA Distinguished Lecture -“Economics in the Age of Algorithms”およびAI and the Future of Workの2つはAI関連だった。
AI開発の歴史は1950年代にさかのぼれるが、社会実装への関心が高まったのは、ここ数年のことだ。2022年11月にChatGPTがリリースされたのを機に生成AIブームに火が付いた。今年のASSA総会はこうした動きが映し出されたものと言えるだろう。
影を潜めつつある「あの悲観論」
もちろん、AIの経済効果については、どの局面に焦点を当てるか、どの時間軸で評価するか、などによって見方は異なるため、学術的には現段階で未知数(Open Question)だ。『機械との競争』や『ザ・セカンド・マシン・エイジ』の著者で、上記AI and the Future of Workのセッションで座長を務めたErik Brynjolfssonスタンフォード大学教授は、会場から「AIやロボットの影響は経済にプラスかマイナスか?」を問われると“It depends(状況による)”と応じていた。
3日間にわたる学会を通じた筆者の個人的な所感としては、数年前の「AIで仕事が奪われる」というような極端な悲観論は影を潜め、プラスの経済効果をもたらす潜在力への関心が以前より高まっていたようだ。
Economic Implications of AIやGenerative AI and Financeなどいくつかのセッションで、筆者が特に印象的だったのは、1990年代に繰り広げられた「ニュー・エコノミー論争」と本質的に変わらない議論があったことだ。 【次ページ】経済にとってAIは結局「プラス」なのか?
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