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  • 2024/08/23 掲載

円安は本当に「一段落」するのか、円高を阻む為替市場の知られざる「落とし穴」とは

篠﨑教授のインフォメーション・エコノミー(第173回)

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日米の金利差は縮小方向の道筋が見えてきた。外国為替市場では過度な円安が一段落し、金利要因の取引では円高圧力(ドルを売って円を買う力学)が作用すると見られる。また、経常収支要因を見ても、対外資産から受け取る利子や配当など「一次所得」の厚みがデジタル赤字など貿易・サービス収支のマイナスを十分補っており、一見すると、この盤石な経常収支の黒字も円高圧力と思える。だが、実はそうとも言い切れない。「一次所得」の半分は円買いに直結しない「再投資」だからだ。今回はこの側面から成熟した債権国の課題を考えてみよう。
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円安は本当に「一段落」するのだろうか
(Photo: Shutterstock.com)

「乱高下しすぎ」円相場の行方は

1ページ目を1分でまとめた動画
 日本銀行は7月31日の金融政策決定会合で、これまで0~0.1%としていた政策金利を0.25%程度に引き上げる追加利上げを決定した。会合後の記者会見で、植田日銀総裁は、経済・物価が見通しどおり推移すれば「引き続き政策金利を引き上げ」ると発言している。

 一方、米国の連邦準備理事会(FRB)は同日(時差の関係で日本時間の8月1日未明)の連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利の据え置きを決めるとともに、会合後の記者会見で、パウエル議長は、9月の利下げを示唆する発言を行った。

 こうして、今後は日米の金利差が縮小する方向になったことから、8月に入ってからの外国為替市場では、一時1ドル=141円台の円高となった。7月には161円台の円安場面もあり、約1カ月足らずで20円程度の荒い値動きだ。

 長めの時間軸で見ると、金利差に着目した為替取引は、今後円安よりも円高の力学が作用すると考えられる。連載の第170回で触れたように、米国がインフレへの対応で利上げに着手したのは2022年3月だ。当時は1ドル=115円前後で推移していた。

 2023年12月まで続いた11回の利上げで、当時0.25%だった政策金利の目標(上限)は現在5.5%になっている。もちろん、これが一気に下がるわけではないし、日本の金利が急速に上がるわけでもないが、今後は日米の金利が逆方向に動くと考えられる。

日本経済が抱える「脆弱さ」と「強靭さ」

 このように、金利の方向性からは過度な円安の流れが一段落し、当面は円高の力学が作用すると見られるが、そもそも、外国為替相場の変動要因としては、金利(金融政策)のほかに経常収支(貿易)やインフレ(物価)など実体経済の動向も重要だ。

 前回前々回の連載で解説したように、日本経済の実態を経常収支の動きで観察すると、第一に、財の貿易では輸出の勢いが陰る中、資源価格の動向次第で貿易収支の赤字が定着しやすくなっていること、第二に、サービス貿易ではインバウンド観光の増加で旅行収支の黒字化が定着している一方、グローバルなデジタル市場で存在感が薄い日本は、デジタル赤字が広がっていることが明らかとなる。

 つまり、経常収支の主要項目である貿易・サービス収支は、過去のような大幅な黒字の持続は期待できず、状況次第では赤字に転じる脆弱性が高まっているのだ。それが、外国為替市場ではドルを売って円を買う力学(円高圧力)を弱め、逆に円を売ってドルを買う力学(円安圧力)を強めてしまうことになる。

画像
図表1:日本の経常収支(項目別長期推移)
(出所:連載の第171回図表2を転載)

 とはいえ、図表1から読み取れるように、日本の経常収支は貿易・サービス収支が赤字の時期も一貫して黒字が続いている。なぜなら、長年かけて蓄積されてきた対外資産から受け取る利子や配当などの「一次所得」が着実に増加しているからだ。

 この厚みが経常収支の黒字を支えており、一次所得の強靭さは一朝一夕に失われるものではない。今や日本は成熟した「債権国」の地位にあり、経常収支の黒字が盤石であれば、円高圧力こそ生じても、円安圧力は生じないと考えられる。だが、これも一筋縄ではいかないようだ。 【次ページ】日本が陥りかねない「落とし穴」とは

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