- 2025/04/08 掲載
最悪シナリオ超え「トランプ関税」、市場大パニックでも「トランプ氏が動じない」ワケ
連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
米国民の55%が「やりすぎ」に思う「トランプ関税」
トランプ大統領の関税政策は、「米国を再び偉大にする」大目標の一環であり、「自由貿易やグローバル化といったオープンな経済・政治体制が、米国の衰退を招いた元凶である」との基本的な認識に基づく。戦後80年間、米国が自ら主導して築き上げたリベラルな世界秩序のため、米国は「貿易赤字で搾取され、被害者であった」との立場だ。そうした「不平等」を是正するため、4月3日に全世界一律の10%のベースライン関税を適用することを発表。さらに政権が不公平とみなす貿易相手国や地域に対する相互関税の税率として、欧州連合(EU)が20%、日本24%、韓国25%、台湾32%、中国34%などを課し、極めて懲罰的だ(図1)。
さらにトランプ大統領は米国民に対し、「鉄鋼やアルミへの25%の一律関税などが、政権の大目標である米製造業の米国回帰に必須である」と説明している。またトランプ政権によると、関税による値上がりは一過性のショックに過ぎず、長期的なインフレの影響はより穏やかなものになるという。
さらに原油や天然ガス採掘の奨励によって、エネルギー価格は低下。規制撤廃で経営コストが下がるため、インフレはやがて収まり、金利も低下する。加えて政府効率化省(DOGE)の連邦政府支出削減が経済活動を若干減速させるため、物価と金利の低下をもたらす、としている。
ところが、多くの消費者はこうした説明に懐疑的であり、貿易政策や関税措置の生活への影響を強く懸念している。
米CBSニュースが調査大手ユーガブに委託して3月27~28日に2609人の米国人成人を対象に行った世論調査によると、トランプ氏の公約である物価引き下げに対する政権の努力は「不十分」との回答者が64%であった一方、関税政策に対しては55%が「やりすぎ」と答えている(図2)。トランプ大統領の政策は、有権者に理解されているとは言い難い。

「高関税→インフレ高進→消費手控え→株価低迷」の懸念
米国民が必ずしも「関税で米国が再び偉大になる物語」を理解していない状況で、極めて重要なのが消費者の景況感だ。なぜなら米国内総生産(GDP)のおよそ7割が消費で成り立っており、トランプ関税で実際の購買行動が低下すれば、米株式市場にも直接的な影響を与え得るからだ。米民間調査機関のコンファレンス・ボードが3月25日に発表した3月の消費者信頼感指数(消費者の景気に対するマインドの指標。1985年を100として指数化している)は92.9と、前月から7.2ポイントも低下し、4年以上ぶりの低水準となった。また、米ミシガン大学が調査する3月の消費者信頼感指数(確報値)も57.0と、速報値の57.9から下方修正され、2022年11月以降で最低となった。
翻って、消費者のインフレ予想を表す1年先の期待インフレ率(確報値)は5.0%と、速報値4.9%から上方修正され、米国民がトランプ政権下で物価高が進むと考えていることが明らかになった。
こうした中、市場関係者や投資家の間では、「高関税→インフレ高進→消費手控え→株価低迷」の経路による景気後退やスタグフレーションが意識されている。
米ウェドブッシュ証券の名物アナリストであるダン・アイブス氏は、「トランプ関税の詳細発表を聞いて、しばらく息ができなかった。想定していた最悪なシナリオよりも、さらに悪かったからだ。市場では最悪のパニックが起こるだろう」と語った。 【次ページ】むしろ消費は上向く? 市場の「最悪のパニック」は収まるか
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