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- 2025/04/15 掲載
グーグルが過去最大買収、クラウドセキュリティ「CNAPP(シーナップ)」とは何か
グーグルのWiz買収、その概要
グーグルが3月19日、クラウドセキュリティ企業Wizを320億ドル(約4.7兆円)で買収することを発表した。この全額キャッシュによる買収は、グーグルにとって過去最大規模となる。これまでで最大となるのは、2012年のモトローラモビリティの買収(125億ドル)だったが、今回の買収額はその2.5倍以上の規模だ。買収の背景には、AIの急速な普及に伴うサイバーセキュリティ需要の高まりがある。Google Cloudのトーマス・クリアンCEOは「ソフトウェアとAIプラットフォームが製品や業務に深く組み込まれる中で、民間企業や政府、その他公共機関にとって新たなリスクが生まれている」と指摘する。
Wizは設立からわずか5年で急成長を遂げた企業。創業メンバーは、アサフ・ラパポート氏、アミ・ルトワク氏、イノン・コスティカ氏、ロイ・レズニク氏で、いずれもイスラエル国防軍のサイバーインテリジェンス部門「Unit 8200」出身と、サイバーセキュリティを知り尽くすメンバーで構成されている。
年間売上高は約10億ドル。買収金額320億ドルは売上高の32倍という極めて高い倍率となる。実は昨年の夏にグーグルは230億ドルで同社の買収を試みているが合意には至らなかった。
グーグルが100億ドル近くを上乗せする形で買収を急いだ理由の1つとして指摘されるのが、事業多角化への高まるプレッシャーだ。
グーグルのクラウド事業は2024年に30%成長し、売上高120億ドルを記録したが、依然として検索広告事業が収益の大半を占める構造に大きな変化はない。
一方、米司法省がグーグルにChromeブラウザとAndroidスマートフォンOSの売却を求めるなど、検索事業に関する独占禁止法の問題を抱えており、検索事業以外への多角化が急務となっているのだ。
今回の買収は2026年に完了する予定となっているが、規制当局の承認が必要となる。バイデン政権下で大型合併に厳しい姿勢を示していたリナ・カーン元FTC委員長の退任を受け、テック大手によるM&Aの機運が高まっているとの見方もある。今後、テック大手による同様の大型買収が増えるかもしれない。
Wizとはどのような企業か?
320億ドルもの評価額が提示されたWizとは、どのような企業なのか。一言で言えば、クラウド向けのセキュリティシステムを開発する企業。グラフ理論を応用したアプローチにより、複雑なクラウド環境のセキュリティを、シンプルに「可視化」して管理するツールを提供している。

従来のクラウドセキュリティのアプローチでは、各サーバーに専用のセキュリティソフト(エージェント)をインストールする必要があった。これは、ビルの各部屋に個別の警報装置を設置するようなもので、手間がかかるだけでなく、複雑化してしまい管理が困難になる。
一方、Wizのシステムは、建物全体を一括監視するような仕組みとなっており、クラウド環境全体を常時監視し、不審な動きがあれば即座に検知することが可能だ。
監視対象は多岐にわたる。クレジットカード情報や個人情報など重要データの取り扱い状況、システムの設定ミス、不正アクセスの試み、マルウェアの侵入など、あらゆる脅威を24時間365日監視する。ただし、監視対象のデータそのものは保存せず、「何がどこにあるか」という情報(メタデータ)のみを記録する方針を採用している。
特に画期的なのがグラフ理論を応用した「Security Graph」と呼ばれる技術だ。これは、複雑に絡み合ったクラウドシステムの関係性を、路線図のように分かりやすく可視化するもの。たとえば、あるシステムの脆弱性が他のシステムにどう影響するか、攻撃者がどのような経路で侵入する可能性があるかなどを、一目で把握することができる。
さらに、アプリ開発向けのセキュリティ対策も提供している。「Wiz Guardrails」は、アプリケーションの開発段階から本番運用まで、一貫したセキュリティ対策を自動的に適用するツール。これにより、複雑なセキュリティ設定に煩わされることなく、開発者が本来の開発業務に集中できる環境を整備することが可能となる。 【次ページ】重要キーワード「CNAPP」とは?クラウドセキュリティ新潮流
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