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- 2024/05/22 掲載
なぜ日本は「今すぐ利上げ」ができないのか? カギ握る「需給曲線のシフト」とは
篠﨑教授のインフォメーション・エコノミー(第170回)
GWに「乱高下」した円ドル相場
東京外国為替市場が閑散となるGW期間中、円ドル相場は大きく動いた。日本が祝日の4月29日には、海外市場で一時1ドル=160円台を付けた。これは1990年4月以来34年ぶりの円安水準だ。海外旅行をした人は現地の物価が高く感じたであろう。2022年以降、外国為替市場では高金利のドルを求めて円を売る動きが基調となっていた。2024年4月26日に日本銀行の金融政策決定会合で「現状維持」が決められたことで、早期の利上げはないとの見方が広がった。これが弾みとなってドル買いが加速したわけだ。
ところが、その数時間後、今度は逆に154円台まで円高に動いた。この急変に関しては、政府・日銀による5兆円規模の為替介入があったのではないかと報じられている(日本経済新聞[2024①])。さらにGW後半の5月に入ると、米国の連邦公開市場委員会(FOMC)を受けてもう一波乱あった。
連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、5月1日まで2日間開かれたFOMC後の記者会見で、利下げには「時間がかかる」としつつも、「利上げの可能性は低い」と強調したからだ。これは、米国の高金利は続くが、さすがに利上げまではないとのメッセージだ。
その結果、ドル買い(円売り)の勢いは衰えて円高が加速した。追い打ちをかけるように、5月3日に公表された米国雇用統計の結果が市場予測を下回り、景気過熱による高金利見通しが低下したため、円相場は一時151円台に急伸した。
為替相場を動かす「3つ」の要因とは
上述の通り、現在の外国為替市場で強く意識されているのは日米の金利差だ。米国ではインフレへの対応で2022年3月にゼロ金利政策を改めてから2023年12月まで合計11回の利上げを行い、政策金利は5.25%~5.5%のレンジに高まっている。市場では、この高金利政策で景気が減速しインフレが抑制されるとの見立てから、2024年内に3回程度の利下げがあると予想されていた。ところが、米国経済は堅調を維持し、インフレの鎮静化も確証できない状況が続いたため、再利上げの観測も浮上していた。
再利上げとなれば、さらに円安が進む懸念もあったわけだが、パウエル議長の記者会見で否定された形となり、円安の流れに歯止めがかかった。その潮目の変化に乗じて、さらなる円安加速を防ぐ目的で2度目の為替介入があったと見られている(日本経済新聞[2024②])。
そもそも、外国為替相場の変動要因としては、(1)金利(金融政策)のほかに(2)国際収支(貿易)や(3)インフレ(物価)などが挙げられる。現在の円・対ドル相場は、この3つの要因の中で特に日米の金利差が注目されているわけだ。
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