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  • 2022/10/24 掲載

老舗ファイザーと新興モデルナ、ワクチンで注目の両社はこんなにも「正反対」だった 篠﨑教授のインフォメーション・エコノミー(第151回)

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COVID-19の感染拡大ではmRNAワクチンの開発が世界で注目された。遺伝子ワクチンとも呼ばれるこの新種のワクチンは、従来型と比べて開発期間が大幅に短縮された。免疫獲得の仕組みがこれまでの「生ワクチン」や「不活性化ワクチン」とは根本的に異なるからだ。今回は、モデルナ本社を直接訪問した筆者が、その仕組みの違いとともに、mRNAワクチン開発で並走するファイザー社とはまったく対照的な同社の社歴について解説しよう。
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ワクチンで注目を集めた2社の社歴は対照的だ

コロナワクチンで注目されるmRNAとは

 COVID-19のパンデミックは、外出制限や都市封鎖による人流・物流の停止などで世界の景色を一変させた。この21世紀の世界的感染症の克服に威力を発揮しているのが遺伝子ワクチンとも呼ばれる新種のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンだ。

 mRNAとは、細胞がたんぱく質を作るめの設計図(遺伝情報)を伝達する物質だ。細胞核にはDNAとRNAの2種類の核酸が存在し、前者は遺伝情報の蓄積・保存の役割を、後者は遺伝情報の転写とたんぱく質の合成という役割をそれぞれ担っている。

 つまり、DNAに保持された遺伝情報がRNAを介してたんぱく質になるわけだ。さらにRNAは、遺伝情報を運んでたんぱく質に翻訳(coding)するmRNAとたんぱく質に翻訳されないnon-coding RNAに分類される。

従来のワクチンと何が異なるのか

 これまで使用されてきたワクチンは、ウイルスなど病原体の一部(たんぱく質)を人体に投与して免疫を獲得する仕組みで、病原体そのものを弱毒化して使う「生ワクチン」と感染力や毒性をなくした「不活化ワクチン」が主流だった。

 これに対して、mRNAワクチンは、ウイルスを作る遺伝情報(mRNA)の一部を人体に投与し、その遺伝情報をもとに 、体内でウイルスの一部(たんぱく質)が作られ、それに対する抗体ができて免疫を獲得するという仕組みだ。

 従来型では、何らかの形でウイルスなど病原体のたんぱく質を量産する必要があるのに対して、mRNAワクチンでは、たんぱく質の製造は体内で行われるわけだ。

開発期間短縮のカギは「たんぱく質の製造過程」

 mRNAワクチンが生ワクチンや不活化ワクチンと異なる最大のポイントは、ワクチン開発期間の大幅な短縮だ。従来のワクチン開発では、鶏卵を使ってウイルスを増殖させるなど「たんぱく質の製造」という材料準備のプロセスに多くの時間と労力がかかった。

 一方、mRNAワクチンの場合は、ウイルス由来のたんぱく質は投与後に体内で作られるため、開発に必要なのは遺伝情報=設計図だけだ。ウイルスを増殖させる必要がないため、遺伝情報さえ解明できれば、直ちにワクチンの生産に取り掛かることができる。

 つまり、この新しいワクチン開発の仕組みでは、これまで重要だった「ウイルスたんぱく質の製造(増殖)」というプロセスをワクチン接種後の体内機能に委ねることで、ワクチン開発のスピードを一気に高めることができるわけだ。

 この点は、ウイルスのたんぱく質を車に置き換えて考えるとわかりやすい。車を大量に製造する場合と車の設計図を大量に複製する場合を比較すると、前者は多くの手間がかかるのに対して、後者は比較的容易にできるだろう。

 COVID-19に対するmRNAワクチンの場合、ヒトの細胞に侵入するための「スパイクたんぱく質(ウイルス表面のトゲトゲした突起物)の遺伝情報」を脂質の膜に包んだワクチンを生産し、これを接種することで、体内の細胞でスパイクたんぱく質が作られ、これに対する中和抗体や免疫応答が誘導されて、感染予防や重症化を回避することができるのだ。

【次ページ】モデルナ社とファイザー社は「対照的」な社歴
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