この逸話が物語るように、IT導入にともなう「仕組みの見直し」で大切なことは、業務のやり方や流れをゼロベースから描きなおすというBPR(Business Process Reengineering:業務の再設計)の発想だ。既存の業務フローは、現在のようなITが存在しなかった時代に形づくられたもので、こうした古い分業の仕組みを残したまま、最新のITを使って業務を強化したり、簡素化したり、見栄えよくしたりするのでは、せっかくの投資が効果を生まない結果に終わってしまう。下手をするとムダなやり取りが「効率化」されて膨大な量となり、内部取引の錯綜でコア業務が停滞しかねない(初歩的な失敗例は社内を漂流する膨大な量のファイル添付CCメールだ)。
最新のITを導入する際には、コアとなる本来業務を見極めた上で、組織や仕事の流れを充分に理解し、最新技術をどう活かすか判断しなければならない(図表2)。この三拍子が揃ったところで、仕事の仕方や遂行の仕組みを一旦白紙に戻し、前々回みたように、比較優位に基づく分業の領域の見直しを行う視点で抜本的な改革を断行するわけだから、まさに、ITの導入に際しては、経営トップやCIO(Chief Information Officer)の力量が問われることになる。