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  • 2019/06/26 掲載

米国の経済指標が示す、人口減少が「低成長の言い訳」にならない理由 篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(111)

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人口減少下の日本では、経済成長に悲観的な見方が多い。だが、日本の人口減少は年率1%未満だ。1990年代に経済再生を果たした米国の経験からは、成熟した先進国も新技術の取り込みで3%程度の生産性上昇は可能だ。ただし、当時の米国がIT投資で乗り越えた課題は、高インフレと高失業の「スタグフレーション」だった。それを端的に示すのがミゼリー指数の推移だ。今回は、この経済指標を解説しながら「低失業率下の低インフレ」という新たな課題に直面する世界経済の変貌を考えてみよう。
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人口減社会が低成長の理由として挙げられるが、本当にそうなのか
(Photo/Getty Images)

米国経済の再活性化から日本が学ぶこと

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 これまで3回にわたって、IT投資による生産性向上でロング・ブームを実現した1990年代の米国経済をみてきた。この経験から学べることは、成熟した先進国でも、新技術の取り込みで生産性を再加速し、経済を活性化させることが可能という事実だ。

 翻って日本では、人口減少社会を迎えて「もはや経済成長が望めない」との悲観論が蔓延している。だが、人口動態は経済成長のほんの一部でしかないことを忘れてはならない。

 クリントン政権下の1993年から2000年まで、米国の経済成長率は年平均3.9%だったが、この間の人口増加率は年平均でわずか1.1%に過ぎない(US Department of Commerceおよび国連World Population Prospectsの統計データによる)。

 つまり、この間の経済成長のうち2.8%は、生産性の上昇でもたらされたものなのだ。

日本の人口減少率は年率1%未満

 日本の人口動態について、同じ国連の統計で1990年代、2000年代、2010年代(2018年までの9年間)をみると、それぞれ年平均で0.3%増、0.1%増、0.1減となっている。確かに米国に比べて低い値だ。

 周知のとおり、2000年代後半からは人口減少時代に突入しており、今後はその傾向が一層強まると見込まれている。この人口動態が経済成長にマイナス要因であることは間違いない。

 だが、国立社会保障・人口問題研究所(2019)によると、今後の人口動態の変化率は、年平均で2020年代は0.5%減、2030年代は0.7%減と1%未満の減少率だ。もし、これからの日本でクリントン政権下の米国と同様の生産性加速が実現すれば、人口減少を織り込んだとしても、2%程度の経済成長が不可能というわけではないのだ。

 とはいえ、今の日本と当時の米国とでは、直面する経済的困難が180度異なるため、単純に援用できないこともまた事実だ。1970年代から1980年代にかけて米国経済が直面していた課題は「失業の増加と高いインフレ」だった。

ミゼリー(悲惨)指数とは何か?

 デフレ脱却に苦闘する今の日本からは想像できないが、当時は、多くの先進国が高いインフレに悩まされていた。それを端的に映し出す経済指標が「ミゼリー指数(misery index)」だ。

 これは、前回解説した二つの重要な経済指標、すなわち失業率と物価上昇率を合成したもので、Miseryは「悲惨な」を意味する英語ミゼラブル(miserable)の名詞形だ。

 トレード・オフ関係にある物価上昇率と失業率が共に低いならば、雇用不安もインフレ懸念もない望ましい経済状態だ。逆にこれらが共に高ければ、経済はとても悲惨な状況に陥っているというわけだ。

 IT投資で経済再生を実現した1990年代の米国は、ミゼリー指数が劇的に低下し、最後は6%を切って5%台の水準に達した(図1)。

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図1:米国のミゼリー指数
(出典:篠崎[2000]より作成)

 パックス・アメリカーナと呼ばれた「黄金の60年代」でさえ、ミザリー指数の下限は6%台半ばだった。しかも、その内訳の推移をみると、1960年代と1990年代ではいくつもの相違点が観察される。

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