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- 2012/12/14 掲載
なぜネットでの選挙活動禁止が時代遅れなのか?:篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(49)
IT需要が促す産業構造の変化
今回は、前回提示した3つの主体と2つの効果というインフォメーション・エコノミーの基本枠組みを拡張して、量的効果、質的効果、効果実現に向けた3段階とその基盤になる制度問題について、それぞれの関係を包括的に考えてみよう。それは関連する産業での「雇用誘発」を促し、さらには、これまでなかったような新規事業の勃興を通じて、まったく新しい「雇用創造」さえもたらす。この点は、連載の第47回で解説したとおりだ。いずれも生産や雇用における「量的拡大」効果といえる。
この量的拡大効果が中長期的に続くと、連載の第11回、12回、13回で解説した産業構造の変化=「ソフト化」や「高度化」という「質的変化」にもつながってくる。
あらゆる産業でIT需要が増大することにより(産業の情報化)、ソフトウェアやコンテンツといった上位レイヤー系の新たな情報産業が生まれ、全産業に占める割合が高まる(情報の産業化)。また、部品や素材などの非IT系の製造業に対しては、より高度な技術集約製品を求める過程で他の産業の高度化をも促すからだ。
もちろん、ITへの需要は単調に増加するわけではない。生産と雇用の量的拡大や産業構造の高度化が進む変化の過程では、その時々で需要の強弱という波が生じるため、生産の増減が景気循環を引き起こし経済の不安定要因にもなる。この点は、連載の第3回で解説した加速度原理と呼ばれる増幅メカニズムが働く投資需要で顕著だ。
ITの「偏在」から「遍在」へ
需要の増大という点で、1990年代と2000年代の違いは3主体の広がりにある。1990年代は企業のIT投資が主導していたが、2000年代に入ると、個人向けのネットPCからデジカメや薄型テレビなどの「デジタル情報家電」までIT需要が広がった。さらに、コンビニでの住民票発行にみられるように、市町村レベルの自治体でも生活に“密着”したIT導入がかなり進んだ。つまり、ITの普及が企業部門に「偏在(かたよって分布)」した時代から、家計部門を巻き込んで全経済主体に「遍在(まんべんなく分布)」する時代を迎えたわけだ。景気循環の観点からは、変動の大きな投資需要だけはなく、比較的動きが安定している個人消費や景気に左右されにくい公的部門にまでIT需要の裾野が広がったとみることができる。
その背後では、貿易構造の大きな変化もみられた。IT関連のハードウェアについては、2000年ごろまでは、輸出が輸入を上回っていたが、2005年ごろからは輸入超過の状態になっており、特に、スマホが主流になってきた2010年代は、その傾向が顕著になっている。かつて、情報家電といえば日本製品が世界を席巻していたが、スマホやタブレットなどの新しい情報端末は、日本市場でも普及の初期段階から輸入品が主流派だ。
安くて性能の良い新製品が次々と海外から輸入されるようになれば、産業構造のさらなる変化が避けられない。連載の第46回でみたように、旧技術から新技術への転換に際しては、旧技術に深く結びつき直ちには転換できない人的資本の失業問題(=雇用代替)や陳腐化に伴う固定的資本の埋没費用化など、生産要素の移動に伴う摩擦が短期的にはマイナスの影響をもたらす。これらは、産業構造の変化に伴う短期的な副作用といえるだろう。
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