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  • 2016/11/25 掲載

インドが、国民IDや行政人員削減に「抵抗がない」理由 篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(80)

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インドでは、2020-2022年頃までを目途に10億人がスマホを使い、銀行口座を有し、身分証明証(ID)を保持する社会を目指す「Digital India」政策が推進されている。今のようなITがない時代には、使用言語、所得水準、識字能力などで社会を分断する壁が多かった途上国も、スマホの爆発的な普及で、さまざまな課題を解決しやすくなっている。同国での特徴は、指紋や虹彩といった生体認証技術によるIDへの抵抗感も小さく、行政事務の効率化に伴う人員削減もそれほど問題視されていないことだ。今回はこの点について、現地調査を踏まえて報告しよう。
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カルナタカ州「e-Governance Center」
(写真:筆者撮影)

スマホの爆発的普及を視野に入れた野心的IT政策

連載一覧
 世界各国では、政府や自治体など公的機関による野心的なIT利活用の政策が目白押しだ。例えば「Digital India」を掲げるインドでは、2020-2022年までに10億人がスマホを使い、銀行口座を有し、身分証明証(ID)を保持する社会を目指してさまざまな取り組みが進められている。

バンガロール市が所在するカルナタカ州では、「e-Governance Center」が中核となって、州政府、市民、住民(市民権のない短期滞在の外国人を含む)、産業界のIT利用が推進されている。

 これまでも、土地所有に関する各種行政手続きのデジタル化を進める「Bhoomi Project」や将来を担う子供たちの能力を高めるKnowledge Future政策などに取り組んできたが、2014年12月からは、スマホの普及を視野に入れて、あらゆる端末から行政へのアクセスが可能な「Mobile One」という政策が始まった。

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Mobile One政策の目的
(写真:筆者撮影)


直観的な理解で誰もが操作できるモバイル技術

 カルナタカ州は早くからIT政策に積極的な地域だ。1997年には衛星通信を使った行政事務(特に主税・主計)の情報化を企画・立案(カザネ・プロジェクト)し、2000年に運用が開始された。その後は、通信基盤を光ファイバー網に拡充し、現在に至っている。

 同州が各種の政策を推進するに際して課題となってきたのが、カナラ語、ヒンディー語、英語といった住民の多様な使用言語の壁だ。さらに厄介なのは、それらの読み書き能力(識字能力)の格差で、これは歴史的に根の深い社会的、経済的事情に起因する。

 モバイル技術の爆発的な浸透は、この問題の解決に貢献すると期待されているようだ。なぜなら、多くの人々がモバイルを利用するようになったことで、現在は、誰もが容易にしかも直感的な理解でITを操作できる環境ができてきたからだ。Mobile Oneはその象徴的な政策スローガンといえる。

ITの課題解決力は途上国同士の国際貢献にも活かされる

 広大な面積と膨大な人口を抱えるインド全土を視野に入れると、多様性の問題はさらに複雑だ。連載の第78回で紹介したC-DACは、中央政府の機関としてe-Sangan と呼ばれる共通プラットフォームの開発・運営を行い、この課題を解決しようと奮闘している。

 Sanganはヒンディー語で「合流」という意味だ。C-DACが開発したe-Sanganは、中央省庁から州政府や地域の行政区に至るまで、数多くの組織でバラバラに形成されてきた各種のシステムをシームレスにつなぐミドルウェアで、行政と行政(G2G)、行政と産業(G2B)、行政と一般市民(G2C)の間の手続きを効率化する基盤と期待されている。

 さらに、C-DACは、カルナタカ州政府のMobile Oneと同様、モバイル化の進展を視野に入れたMobile Sevaという政策にも取り組んでいる。Sevaはヒンディー語で「サービス」という意味だ。

 Mobile Sevaは、SMS(ショート・メッセージ・サービス)を活用したもので、農民への耕作情報や気象情報の提供、予防接種や病院の予約など市民向けの医療情報提供、投票所や裁判所の所在といった社会参加の情報提供、銀行口座がなくても送金できるモバイル・ペイメント(連載の第54回第55回参照)のサービス提供などが含まれる。

 注目されるのは、こうした取り組みのグローバルな展開力だ。C-DACが開発したこれらのシステムは、タンザニアやブータンなど他の途上国にも技術供与され、現地で高く評価されるなど途上国間の国際貢献に一役買っている。

【次ページ】国民IDの取り組みでみられる発想の違い
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