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- 2016/11/25 掲載
インドが、国民IDや行政人員削減に「抵抗がない」理由 篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(80)
スマホの爆発的普及を視野に入れた野心的IT政策
バンガロール市が所在するカルナタカ州では、「e-Governance Center」が中核となって、州政府、市民、住民(市民権のない短期滞在の外国人を含む)、産業界のIT利用が推進されている。
これまでも、土地所有に関する各種行政手続きのデジタル化を進める「Bhoomi Project」や将来を担う子供たちの能力を高めるKnowledge Future政策などに取り組んできたが、2014年12月からは、スマホの普及を視野に入れて、あらゆる端末から行政へのアクセスが可能な「Mobile One」という政策が始まった。
直観的な理解で誰もが操作できるモバイル技術
カルナタカ州は早くからIT政策に積極的な地域だ。1997年には衛星通信を使った行政事務(特に主税・主計)の情報化を企画・立案(カザネ・プロジェクト)し、2000年に運用が開始された。その後は、通信基盤を光ファイバー網に拡充し、現在に至っている。同州が各種の政策を推進するに際して課題となってきたのが、カナラ語、ヒンディー語、英語といった住民の多様な使用言語の壁だ。さらに厄介なのは、それらの読み書き能力(識字能力)の格差で、これは歴史的に根の深い社会的、経済的事情に起因する。
モバイル技術の爆発的な浸透は、この問題の解決に貢献すると期待されているようだ。なぜなら、多くの人々がモバイルを利用するようになったことで、現在は、誰もが容易にしかも直感的な理解でITを操作できる環境ができてきたからだ。Mobile Oneはその象徴的な政策スローガンといえる。
ITの課題解決力は途上国同士の国際貢献にも活かされる
広大な面積と膨大な人口を抱えるインド全土を視野に入れると、多様性の問題はさらに複雑だ。連載の第78回で紹介したC-DACは、中央政府の機関としてe-Sangan と呼ばれる共通プラットフォームの開発・運営を行い、この課題を解決しようと奮闘している。Sanganはヒンディー語で「合流」という意味だ。C-DACが開発したe-Sanganは、中央省庁から州政府や地域の行政区に至るまで、数多くの組織でバラバラに形成されてきた各種のシステムをシームレスにつなぐミドルウェアで、行政と行政(G2G)、行政と産業(G2B)、行政と一般市民(G2C)の間の手続きを効率化する基盤と期待されている。
さらに、C-DACは、カルナタカ州政府のMobile Oneと同様、モバイル化の進展を視野に入れたMobile Sevaという政策にも取り組んでいる。Sevaはヒンディー語で「サービス」という意味だ。
Mobile Sevaは、SMS(ショート・メッセージ・サービス)を活用したもので、農民への耕作情報や気象情報の提供、予防接種や病院の予約など市民向けの医療情報提供、投票所や裁判所の所在といった社会参加の情報提供、銀行口座がなくても送金できるモバイル・ペイメント(連載の第54回、第55回参照)のサービス提供などが含まれる。
注目されるのは、こうした取り組みのグローバルな展開力だ。C-DACが開発したこれらのシステムは、タンザニアやブータンなど他の途上国にも技術供与され、現地で高く評価されるなど途上国間の国際貢献に一役買っている。
【次ページ】国民IDの取り組みでみられる発想の違い
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