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- 2023/06/15 掲載
なぜ日本は「デジタル敗戦」したのか、米国に差を付けられて当然の「3つの問題」とは 篠﨑教授のインフォメーション・エコノミー(第159回)
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国際社会が躍動感に満ちた過去30年
前回解説したように、デジタル化の波に乗った生産性向上は、技術への投資と無形資産への投資(仕組みの見直し)が一体となって実現する。先陣を切ってこの波に乗り、ニュー・エコノミーを実現したのは1990年代の米国経済だ。多くの実証研究によって、米国経済がデジタル技術への投資で生産性を再加速させ、高い成長を実現したと実証されている。見落としてはならないのは、デジタル化の波は冷戦終結に伴う「平和の配当」の中で世界に広がったことだ。
ヒト、モノ、カネなどの経済資源が国防関連から民間のハイテク分野へとシフトする中、旧社会主義圏が市場経済に移行したことで、人口比で2割程度にすぎなかった西側の市場経済圏が一気にグローバル規模に広がった。
すり合わせ型のアナログ製品とは異なり、モジュール構造のデジタル財は、グローバルな分業になじみやすい。新たに市場化した経済圏の安くて豊富な労働力を上手く生かせば、大きなビジネス・チャンスが生まれる。
実際、パソコン製造・直販のデルや小売り大手のウォルマートなどデジタル技術を駆使してグローバルに広がるサプライチェーンを構築した企業は、変化の波を巧みに捉えて事業規模を急拡大させた。
ICT産業で「命運」分かれた日米
もちろん、こうした国際環境の激変は副作用も生んだ。冷戦に勝利した西側先進諸国は価格競争の激化に直面し、より付加価値の高い分野へ産業構造の転換が迫られたからだ。新たに市場化した経済圏からふんだんに供給される領域に従来どおりヒト、モノ、カネを張り付けていたのでは、賃金が同じ水準に引き寄せられデフレ圧力がかかり続ける。これは、国際経済学でいう「要素価格均等化定理」そのものだ。
このワナにはまらないためには、付加価値の高い領域に経済資源をシフトさせ、一人当たり所得(=生産性)を向上させなければならない。GAFAに象徴されるテック企業が成長をけん引した米国では、こうした資源配分のシフトでICT産業が発展を遂げた。
国際産業連関表を用いて日米中印などのICT産業を分析した小野﨑他(2023)によると、中国やインドが大幅な価格低下を伴いながら産業の規模を拡大させる中、米国はコンテンツや情報サービスの分野を中心に価格の上昇を伴いながら産業規模を拡大させた。
つまり、成熟した先進国の米国は、ICT産業内での高度化を通じて、より付加価値の高い分野にシフトし、中国やインドなど新興国との価格競争によるデフレを回避しつつICT産業の発展を実現したのだ。
一方、日本のICT産業を見ると、ハードウェアから情報サービスやコンテンツに至るまであらゆる分野で価格低下に見舞われ、数量の伸びにも勢いがなかった(小野﨑[2023])。技術体系と国際環境が激変する中で「失われた30年」を費やした姿を象徴する結果だ。 【次ページ】日本が直面した「3つの過剰」問題とは
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