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  • 2024/07/01 掲載

世界「最速」で復活するインバウンド、でも国民が豊かさを実感できないワケ

連載:「コロナ後のインバウンドの行方」

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2022年10月にコロナ水際対策が本格的に緩和されて以降、訪日外国人(インバウンド)が過去最高更新ペースで増え続けている。筆者は今年4月、およそ5年ぶりに成田空港を訪れたが、空港内を闊歩(かっぽ)しているのも機内に乗り込んでいるのも、体感で7~8割が外国人だった。しみじみとインバウンドの勢いを実感させられた。だが、これほどの盛況でも、国民の多くはインバウンド増加による恩恵を実感できずにいる。なぜだろうか。ここでは急速に回復するインバウンドの状況、インバウンド急増の正負の側面、免税品転売の実態を分析するとともに、豊かさを実感できる状況にするには何が必要かを考えたい。
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図表1:2024年1~5月の国・地域別訪日外客数とコロナ前(2019年1~5月)に対する伸び率(後ほど詳しく解説します)
(出典:日本政府観光局(JNTO)資料より筆者作成)

過去最高更新ペースで増加するインバウンド

 訪日外国人(インバウンド)が過去最高更新ペースで増加している。2024年1~5月のインバウンドは、コロナ前の2019年1~5月比6.5%増の1464万人。2024年通年でも過去最高の3188万人(2019年)を更新する可能性が高い。

 インバウンド絶好調の背景には、文化・自然資源に恵まれた旅行先としての日本の魅力に加え、諸外国に比べあまり物価が上昇していないこと・円安によるお得感がある。今や日本は先進国とはとても思えない格安料金で、素晴らしいサービスや食事を堪能し高水準の商品を入手できる、世界でもまれにみるお得な国なのである。

 私事で恐縮だが、筆者は今年4月、10日間トルコ旅行に出掛けた。驚いたのは物価が思いのほか高いことである。観光客相手の飲食店・サービスは言わずもがな(奇岩で有名なカッパドキアの屋台のざくろジュースは1杯850円。奇岩を空から眺める熱気球はおひとりさま3.2万円)、地元民相手のスーパーに出掛けても、東京より目立って安いのはミネラルウオーターくらいで、あまり買い物意欲をそそられなかった。

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トルコの熱気球への搭乗も数年前より価格が上昇している
(Photo/Shutterstock.com)

 トルコがハイパーインフレに見舞われた国だということもあるが、新興国だからと言って物価が安いとは限らない。カッパドキアもイスタンブールも素晴らしかったが、お金が飛ぶように消えていくのは悲しかった。

 話をインバウンドに戻すと、コロナ後の主役は韓国客である(図表1)。コロナ前に客数・旅行消費額の両面で首位だった中国客は、水際対策本格緩和当初、日中両国に規制が残っていたこと、中国経済の不振から戻りが悪かったが、じわじわと回復している。

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図表1:2024年1~5月の国・地域別訪日外客数とコロナ前(2019年1~5月)に対する伸び率
(出典:日本政府観光局(JNTO)資料より筆者作成)

 遠方組では米国客の躍進が著しい。直行便が増加しているということもあるが、物価高で治安もよろしくない米国客からすると、日本は驚くべき低価格で犯罪の不安もなく旅を満喫できる素晴らしい国なのだろう。

 だが、その一方でインバウンド急増は、一部地域でオーバーツーリズム(観光公害)を引き起こしている。オーバーツーリズムとは、人気観光地で混雑、渋滞、ごみのポイ捨て、地域住民が公共交通機関に乗れないなどの問題が起き、あまりの混雑に観光客もうんざりして満足度を低下させることを指す。

 インバウンドが多く訪れる地域では宿泊料金が高騰し、出張する際、会社の予算内でホテルに泊まれないという事態も頻発している。テレビを見ても、「富士山ローソンの前にインバウンドが殺到して黒幕がかけられた」など、インバウンドが負の文脈で語られることが少なくない。なぜこんなことになったのだろうか。

回復ペースは世界最速レベル

 インバウンド誘致に躍起になっていた2000年代前半には「ぜひともいらしていただきたいお客さま」だったインバウンドが、ここへきて「何だか迷惑な人たち」扱いされるようになったのは、3点ほど理由があると思われる。

 1点目は、インバウンド増加でオーバーツーリズムが顕在化したことである。もともと、宿泊・飲食業、運輸業など観光関連業界ではコロナ禍で人材が大量離職して、その後も戻りが悪かった。日本人の旅行需要だけで手一杯だったところにインバウンドが急増して、最後の一押しとなった感がある。

 2点目は、インバウンドが特定の地域に集中していることである。日本中どこへ行っても満員御礼というわけではなく、東京、大阪、京都、富士山、福岡など特定地域にインバウンドが集中してオーバーツーリズムを引き起こしている。2024年3月の観光庁の宿泊統計を見ても、首位の東京都(482万人泊)の外国人延べ宿泊数は、最下位の秋田県(4620人泊)の実に1043倍である。

 3点目は、2022年末以降、日本のインバウンドが世界最速ペースで増えたことである(図表2)。

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図表2:2019年を100とした場合のインバウンドの回復ペース
(出典:国連世界観光機関(UNWTO)統計資料より筆者作成)

 コロナ禍により、島国の日本は水際対策が本格的に緩和される2022年10月までほぼ鎖国状態だった。海外でも2021年まではあまり海外旅行をしようという機運はなかったが、日本に比べると落ち込みの小さい国・地域が多く、2022年に入ると欧州を先頭にさっそく海外に出掛け始めた。

 一方、日本は2022年10月から急激にインバウンドが増加した。2023年のインバウンドを見ると、世界全体が前年比1.3倍の13億人だったのに対して、日本は6.5倍の2507万人である。日本人から見ると、本格緩和で扉を開けたとたんにインバウンドがなだれ込んできたという印象になる。インバウンドは日本のマナーに不慣れで悪目立ちしやすいこともあり、オーバーツーリズムの主犯と見られがちでもある。

 もちろん、インバウンド増加にはプラスの面も多々ある。

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図表3:百貨店免税売上高推移(次ページで詳しく解説します)
(出典:日本百貨店協会より筆者作成)
【次ページ】大都市の百貨店免税売上高が絶好調

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