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個人を識別し、行動データを取得できるAIカメラを全国に設置する──「スマートシティ構想」の旗印の下、国はそんな計画を実現しようと自治体に協力を呼び掛けている。行政側はビッグデータ活用によるメリットを強調する一方、外出時に常に行動を監視されることを不気味に感じる人も少なくないだろう。私たちのプライバシーは大丈夫なのか。その狙い、観光・防災分野における活用事例、課題と展望を整理する。
スマートシティ構想とAIカメラの必要性
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スマートシティ構想」とは、先端技術を活用してインフラや施設の運営効率化を図り、人手に頼らず住人や観光客の利便性、安全性を向上するというもの。
内閣府はスマートシティの定義について「ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域であり、Society5.0の先行的な実験の場」と説明している。
活用する技術の具体例としてはAIのほか、キャッシュレスサービスや自動運転技術、医療情報のデータ活用などが含まれる。2019年に内閣府などが主導して「スマートシティ官民連携プラットフォーム」が発足し、翌年の新型コロナウイルスの感染拡大もあって議論が活発化した経緯がある。
足元ではすでに、デジタル技術を活用して東京一極集中を是正することを目標に掲げて各地の自治体で実証実験が始まっている。たとえば長野県伊那市ではケーブルテレビのリモコン1つでタクシーの予約や、ドローン配達による注文ができるサービスを提供している。
スマートシティ構想を実現する上では、消費者や産業活動が生み出すビッグデータを効率的に取得、解析する必要がある。その手段としてAIカメラの活用を、特に観光・防災の分野で推進する考えだ。
個人の行動履歴を把握し分析
観光地に設置されたAIカメラは、観光客を個人ごとに識別した上で、いつ、誰が、どのようなルートで一帯を回ったかといった行動履歴を1人ひとり把握し、分析することになる。
AIカメラは単に個人を識別するだけでなく、通行人の性別、年代といった属性を分析し、表情を読み取ることもできる。こうしたデータを蓄積することで、季節や曜日、時間帯などが異なる状況において、店舗の客足がどのように変化するかをシミュレーションすることも可能になる。
経験則に依存せざるを得なかったイベントの企画や飲食店でのメニュー開発も、データを活かした高精度のマーケティングが可能になる。さらに、スマホや街角に設置したデジタルサイネージを通し、個人の属性に合わせたおすすめ情報を提供するプッシュ型の発信にもつなげられるというわけだ。
また、集団の行動を把握し、歩行者に状況をリアルタイムで伝えることで、過度な混雑の回避につながり得る。韓国・ソウルで発生した大規模な雑踏事故も記憶に新しい中、国はAIカメラの活用による事故抑止のメリットを強調し、観光地に実証実験への参画を呼び掛けている。
実際に東京都の六本木商店街では、AIカメラを搭載した「スマート街路灯」を導入。訪れる人の属性や行動パターンに関するデータを収集、分析している。街路灯の近くを通った人の属性にあった広告をデジタルサイネージに表示し、QRコードでクーポンを配布するなど、商店街全体の回遊率向上を狙う。さらに、人流データを元にして混雑を避けるアナウンスをスピーカーから流し、事故抑止を図っている。
現在、観光地における客足の急激な増減や、マナーをめぐるトラブルなどで現地の環境が悪化する
オーバーツーリズムの問題が注目を集めている。AIカメラの情報を活用して人流をコントロールし、観光客のニーズに寄り添ったサービスをすれば、問題の解決策につながるとの期待もある。
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