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  • 2023/07/05 掲載

今すぐ「富裕層観光」を強化すべき理由、利益なき繁忙「安いニッポン」の打開策

連載:「コロナ後のインバウンドの行方」

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コロナ下の半鎖国状態がうそのように、街に訪日外国人(インバウンド)が押し寄せている。インバウンド復調は経済効果、相互理解の促進といったプラス面を持つ一方、観光関連産業の深刻な人手不足、宿泊料金の上昇などの副作用も生み出している。また、「安いニッポン」がインバウンドを惹きつけている面もある。このままでは利益なき繁忙に陥りかねない。そこで注目されるのが、消費単価が高いうえにインフルエンサー的な側面も持つ富裕旅行者である。うわさには聞く海外の富裕旅行者。彼らはいったいどこにいるのか。そして日本は彼らを惹きつけられるのか。分析してみた。
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図表1:2023年5月の国・地域別訪日外客数とコロナ前(2019年5月)に対する伸び率
(出典:日本政府観光局(JNTO)資料より筆者作成)

コロナ前の7割の水準に、回復続くインバウンド

 2022年10月、コロナの水際対策が本格的に緩和されて以降、訪日外国人(インバウンド)が順調に回復している。2023年5月の訪日客数は190万人とコロナ前(2019年5月)の約7割の水準に達した。

 インバウンドをけん引しているのは韓国、台湾、米国、香港である(図表1)。国内旅行の延長のノリで続々とやって来る韓国、日本マニアとも言うべき台湾・香港が水際対策緩和後のインバウンド新御三家だったが、4月以降、米国が香港を抜いて3位に浮上した。インバウンド上位国・地域のうち、米国、シンガポール、ベトナム、カナダからのインバウンドは既にコロナ前の水準を超えており、回復の勢いを印象付ける。

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インバウンドをけん引しているのは韓国、台湾、米国、香港
(Photo/Shutterstock.com)

 一方、コロナ前に訪日客の約3割を占め、客数・消費額の両面で主役だった中国は、中国政府が訪日団体旅行を解禁していないことなどから5月時点で19年同月比18%程度しか戻っていない。ただ、水際対策緩和後直後の「ほぼ存在感ゼロ」から着実に増加基調をたどっている。

1%の富裕層が全体の12%を消費する!?

 コロナ前の2016年3月、国は「2020年に訪日外国人旅行者数4000万人、2030年に6000万人」、「2020年に訪日外国人旅行消費額8兆円、2030年に15兆円」という目標を掲げていた。コロナで2020年の目標は夢に終わったが、ここへきて量から質へ軸足を移している。


 2023年3月、「観光立国推進基本計画」が閣議決定された。客数ではなく旅客消費額を重視する内容となっており、2025年に「訪日外国人旅行消費額単価20万円(2019年実績値15.9万円)」、早期達成目標として「訪日外国人旅行消費額5兆円(2019年4.8兆円)」などを掲げている。ちなみに、現在のインバウンドには高所得者が多いこともあり、2023年1-3月期の訪日外国人旅行消費額単価は21.1万円と、既に目標をクリアしている。

 国はインバウンドの量から質への転換を目指すと同時に、富裕層の誘致にも注力している。背景には富裕層の消費単価の高さがある。2019年時点で、日本のインバウンドにおける富裕層は全体の約1%(約29万人)にすぎなかったが、消費額は約11.5%(約5,500 億円)だった(観光立国推進閣僚会議「新時代のインバウンド拡大アクションプラン(2023年5月)」による)。圧倒的な消費力である。

「安いニッポン」が現在のインバウンド増加を後押ししている点にも問題が潜んでいる。旅行先としての日本の魅力は、自然・文化資源に恵まれ食事もおいしいこと等にあるが、先進国のわりに物価が安いことも人気の一因である。ただ、このまま「安いニッポン」が前面に出ているようでは、利益なき繁忙に陥りかねない。

 あまりの物価高で一般層にはハードルの高いスイスを目指すとまではいかなくとも、上質・高級な旅へ徐々に軸足を移す国のスタンスは妥当と言える。 【次ページ】日本は富裕層旅行先として有望?誘致の課題
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