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中国客の戻りが悪い中でも、訪日外国人(インバウンド)が順調に回復している。その一方で問題化しているのがオーバーツーリズム(観光公害)である。特に京都の事態は深刻化しており、9月には初めて「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に関する関係省庁対策会議」が開かれた。日本のみならず、海外でもオーバーツーリズムに悩む国・地域は多い。オーバーツーリズム解消と外貨獲得の一石二鳥を狙うトルコ、強気の価格設定を行うブータン、オーバーツーリズム解消の最終手段を採ったアテネの例を見ながら、対処法を考えたい。
京都で路線バスに乗れない?オーバーツーリズムの弊害
訪日外国人(インバウンド)が順調に回復している(図表1)。2023年1~9月の訪日客数は1737万人とコロナ前(2019年1~9月)の約7割の水準に達し、通年での2000万人超えはほぼ確実である。
その一方で、コロナ禍前にもみられたオーバーツーリズムが再び顕在化している。
オーバーツーリズムとは、人気観光地で混雑、渋滞、ごみのポイ捨て、地域住民が公共交通機関に乗れないなどの問題が起き、地域住民の生活や自然環境、景観などが我慢しきれないほどのマイナスの影響を受け、あまりの混雑に観光客もうんざりして満足度を低下させることを指す。
オーバーツーリズムが顕在化している街として京都を例に挙げると、コロナ禍真っただ中は静かに観光できた嵐山などの有名観光地では、観光客殺到で混雑、渋滞、ごみのポイ捨て、地域住民が公共交通機関に乗れないなどの問題が起きている。観光関連業者は客足が戻って胸をなでおろしているだろうが、混雑のあまり通勤・通学のための路線バス乗車もままならず、日常生活に支障をきたしている地域住民もいる。
インバウンド誘致は国民生活を豊かにするためのものだろうが、これでは何のための誘致か分からない。
オーバーツーリズムはインバウンド“だけ”のせいではない
生成AIで1分にまとめた動画
日本政府もオーバーツーリズムには危機感を募らせており、2023年9月に初めての「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に関する関係省庁対策会議」が開かれた。ただ、オーバーツーリズムの解決は一筋縄ではいかない。
昨今のオーバーツーリズムは、日本人の旅行需要が力強く回復していることも大きく、インバウンドだけのせいではない。日本人の旅行需要は、旅行支援等の需要喚起策などにより2022年秋ごろにはコロナ禍前の水準に回復している。2023年7月時点の全国延べ宿泊数でみると、インバウンドは全体の約2割程度である。
それなのにオーバーツーリズムの主犯がインバウンドに見えるのは、インバウンドは京都など特定の観光地に集まりやすく、かつマナーもよく分かっていないので悪目立ちしやすいことがある。
コロナ禍により宿泊・飲食業、運輸業などから大量の人材が離職したきり戻ってこないことから、観光関連業界は人手不足でてんてこ舞いし、タクシーもバスも台数を増やせずにいる。日本人の旅行需要でパンク寸前だったところにインバウンドが急増して、最後のひと押しになった感は否めない。
ここからは、インバウンドを中心としたオーバーツーリズム対応策を考えたい。
オーバーツーリズム解消と外貨獲得の一石二鳥を狙うトルコ
オーバーツーリズムのもっとも単純な対応策は、観光地・観光施設の入域料・入場料値上げである。
オーバーツーリズム解消と外貨獲得の一石二鳥を狙うべく、有名観光施設の入場料をどんどん値上げしているのがトルコである。2023年8月時点の料金はイスタンブールのトプカプ宮殿入場料(ハレム込み)が950トルコリラ(約5,225円)、ヒエラポリス・パムッカレ入場料が700トルコリラ(約3,850円)となかなか強気の価格設定である。10年前に比べて約30倍(現地通貨ベース)という、驚くべき値上げぶりである。
ただこれには裏があり、トルコ人とトルコの滞在許可証を持っている人には、ミュゼ・カルトという格安年間パス(60トルコリラ、約330円)が販売されている。このパスを持っていればめぼしい観光施設に入場できる。事実上の二重価格である。
さすがにここまで露骨に差をつけると「外国人差別だ」「外国人旅行者を金づると思っているのか」という不満の声が上がるが、日本はというと清水寺拝観料400円、浅草寺に至っては無料という欲のなさである。
オーバーツーリズム解消のためにも、混雑に悩む観光施設は外国人料金を設定するなり、入場料を引き上げて地域住民向け年間パスを発行するなどの対応をした方がいいのではないだろうか。
【次ページ】アテネで採用、オーバーツーリズム解消の最終手段!?