篠崎教授のインフォメーション・エコノミー(第132回)
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デジタル化の進展によって、部門間の境界や職責が明確な「モジュール型システム」に有利な環境が生まれている。この環境変化は、かつて日本の強みだった特質を弱みへ裏返す大転換につながっている。その背景を探ると、コロナ禍で露呈した日本の「デジタル敗戦」の源流に辿れそうだ。
デジタル敗戦と経済システムの関係とは?
特定給付金を巡る混乱など、コロナ禍で露呈した「デジタル敗戦」とも言われる状況は、情報技術革新と軌を一にして経済活力を失った日本の姿を象徴している。この点について、
連載の126回では、これまでの議論を3点に整理して考察した。
いずれも、情報化が本格化した1990年代の経済停滞を1980年代と対比したものだ。第1の議論は、日本経済の停滞はジャパン・アズ・ナンバーワンの時代に称賛された日本型システムが1990年代以降に変わってしまったという「変質説」、第2は、そもそもジャパン・アズ・ナンバーワンは幻想で、経済効率性を向上させるような日本型システムは存在しなかったという「不存在説」だ。
そして第3の議論は、日本型システムの特質はたしかに存在し、基本的には変わらないが、デジタル化によって、以前は強みだった特質が弱みになったという「情報化要因説」だ。
これは、「存在・不変説」に「技術変化」を組み込んだ議論で、
クライン教授らによる日米共同研究もその1つと言える。そこで用いられたのが、
連載の第128回で解説した「統合型システム」と「モジュール型システム」という概念だ。
デジタル革命を生んだ技術革新によって、統合型システムに有利な状況からモジュール型システムに有利な状況へと経済環境が大転換(DX)したというわけだ。一体なぜなのか。その手がかりを探ってみよう。
日本の「閉鎖インテグラル型」、米国の「オープン・モジュール型」
情報技術革新と経済との関係について、中条(2000, 2001)では、藤本・武石(2000)、鬼木(2000)、国領(2000)らによる自動車、コンピュータ・半導体、情報・通信などの産業別日米比較分析をもとに、「オープン化」を鍵概念として考察がなされている。
日本の産業を「閉鎖インテグラル型」、米国の産業を「オープン・モジュール型」に特徴付けた上で、モジュール化が困難で、擦り合わせ・作り込みを追求するような分野では日本が競争力を有しているが、「このシステムは、形成するのに時間がかかり、かつ、一度できあがると改変の困難なシステムである」とその弱みを指摘している(中条[2000])。
そして、米国産業がデジタル化と共に復活した要因を、(1)閉鎖インテグラルな仕組みから生まれた日本的な品質管理を学習したこと、(2)オープン・モジュール型に有利な市場環境が整ってきたことの2点だと述べている。
このうち、後者の市場環境の変化については、先進国経済の成熟化に伴う市場ニーズの多様化やグローバル化による多様な市場の出現に加えて、パソコンなど技術革新が速くモジュール化に適した情報関連分野が急成長した点が強調されている。
その上で、個別産業の分析から浮かび上がる日本経済の問題点を、(1)自然条件などから米国と比較した優位性のなさ、(2)経営戦略の誤り、(3)経済制度・社会制度上の問題、という3要因で考察している。
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