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情報の解像度が高まり「サプライチェーンの可視化」が進んだことで、人権や環境への配慮など「生産のされ方」も消費者や投資家の意思決定に影響するようになった。サプライチェーンの上流におけるエコシステム(経済圏)まで注意深くトレーシングされ、評価の対象となるのだ。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」やEUの「プロダクト・パスポート」など、ESGにも関係する取り組みは、その一端といえる。今回は、こうした観点から「令和のレピュテーション・リスク」と「21世紀型のカントリー・リスク」について考えてみよう。
可視化されるサプライチェーンの上流
前回解説した通り、情報技術の進歩と普及で「
情報の解像度」が飛躍的に高まった結果、企業がどのようなサプライチェーンを形成しているか、原料、材料、部品にまで遡(さかのぼ)ってトレーシングしやすい状況が生まれている(図表1)。
これまで消費者は、サプライチェーンの川下(下流)に位置する「アウトプット市場」で、価格や品質を判断してきたが、今では、サプライチェーンの川上(上流)に位置する「インプット市場」を見据えて、安全や安心、人権、環境など「生産のされ方」も考慮して判断できるようになった。
企業内部のインナーサークルだけでなく、企業外部の一般の消費者や投資家にも、サプライチェーンの上流がきめ細かく可視化される結果、それを基に形成される評判(レピュテーション)が、購買や投資の意思決定に影響を及ぼす社会が出現しているのだ。
人権や環境への配慮など「生産のされ方」も判断材料に
国連の人権理事会で2011年に決議された「
ビジネスと人権に関する指導原則」では、サプライチェーンにおける人権の尊重を企業に求めている。こうした取り組みは、消費者のみならずESGを重視する金融機関や投資家、地域社会や住民、政府や行政機関など企業のさまざまなステークホルダーの意思決定にも影響を及ぼすはずだ。
仮にまったく同じ品質の商品、すなわち同質財が市場で販売されている場合、一方は人権を無視した劣悪な労働環境の下で生産され、他方は国際的基準に照らして適正な労働環境の下で生産されているなら、両者の違いを識別できる消費者や投資家は、多くの場合、後者を選択するだろう。
情報サービス分野も例外ではない。「邪悪になるな(Don’t be evil)」とはグーグル(Google)の非公式な行動規範とされるが、これを単なるキャッチフレーズではなく、より具体的な企業活動の実態として、ユーザーや投資家が知ることは重要だ。
たとえば、まったく同質のWebサービスを考えると、プライバシーや個人情報を適正に保護しているか否か、大量の電力を必要とするデータセンターの電源が、再生可能エネルギーなど環境に配慮したものか、逆に、化石燃料を多用した電源に依存しているか、など、サプライチェーンの上流を識別できる情報は、消費者や投資家の意思決定に有益だ。
プロダクト・パスポートという着想
この動きは製造業などあらゆる領域に及びそうだ。EUが提唱している「プロダクト・パスポート」という着想はその一端といえるだろう。これは、生産過程で使用された原材料やその含有割合、製造方法や環境負荷といった製品毎の属性情報を人間のパスポートのように個々の製品に「ひも付け」する取り組みだ(伊藤[2020])。
これが実現すれば、あらゆる財サービスについて、どこでどのように採掘された資源や原料か、それらを用いてどのような労働環境で生産され、どのくらいの環境負荷で物流網に乗り、最終的に市場で供給されているか、デジタル情報として識別できるようになる。
インダストリー4.0や
IoTが具体化する中で、プロダクト・パスポートは、サーキュラー・エコノミー(循環経済)を実現していく有力な手段になるともみられている。広く実用化されていけば、消費者や投資家のレピュテーションに大きく影響するのは間違いない。
【次ページ】ウクライナ危機が可視化した「令和のレピュテーション・リスク」とは?
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