篠崎教授のインフォメーション・エコノミー(第130回)
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IoTやCASE(Connected、Autonomous/Automated、Shared、Electric)に象徴される経済のモビリティ化によって、有限希少な電波の経済価値が一段と増している。総務省で開催されている「
デジタル変革時代の電波政策懇談会」では、新規の電波割り当て(プライマリー・マーケット)だけでなく、すでに割り当て済みの電波についても、有効利用に向けた再配分(セカンダリー・マーケット)の必要性が浮き彫りになった。今回は、技術革新を視野に入れた周波数のセカンダリー・マーケットについて、その重要性を考えてみよう。
周波数のセカンダリー・マーケット(中古市場)とは
電波は「有限希少な国民共有の資源」だ。IoTやCASEが象徴するように経済社会の
モビリティ化が進展する中で、その経済価値が改めて注目されている。身の回りの空間で移動の柔軟性を確保するには、電波の利活用が欠かせないからだ。
その電波の割り当てについては、世界的にさまざまな方策が編み出されている。
前回言及した電波割り当てにおけるオークションの研究と実用化はその一例で、2020年のノーベル経済学賞の受賞対象となったほどだ。こうした方策の創出自体が1つのイノベーションと言える。
これまでの議論の多くは、新規に割り当てる周波数、すなわち、プライマリー・マーケット(新規市場)に主眼が置かれていた。盲点となっていたのが、過去に割り当て済みの周波数だ。技術進歩が進む中では、すでに割り当てられた周波数を今の技術でどう有効活用するかも検討に値する。
これは、言わばセカンダリー・マーケット(中古市場)をどのように整えていくかという論点だ。古い技術体系のもとで割り当てられた有限希少な電波資源について、利用の実態を照らし出し、新しい技術のもとでより有効に活用していくことを目指す仕組み作りと言える。
「見える化」された電波の活用状況
この観点に立つと、「デジタル変革時代の電波政策懇談会」の
第2回会合で示された総務省の資料は、過去に割り当てられた周波数の現状を「見える化」した試みとして興味深い。
セカンダリー・マーケットの整備に際しては、いくつかの留意点もある。その1つは、全体を俯瞰した利用状況の「見える化」だ。たとえば、上記資料は、技術革新のスピードが速く、トラヒックが継続的に増加している携帯電話などの領域に限られたものだが、同様の評価はほかの領域でも望まれる。
というのも、携帯電話などの事業領域は、以前から新技術の導入にかなり意欲的で、さまざまな取り組みが続けられてきたからだ。その中で相対評価が低いとしても、ほかの領域と比較すれば、充分に有効利用している可能性もあるのだ。
今後の電波政策でセカンダリー・マーケットを機能させるのであれば、周波数全体の利用状況を俯瞰し、部分最適ではなく、全体最適で有効利用を促すことが望まれる。ひいてはそれが社会的厚生を全体として高めることにつながるだろう。
【次ページ】電波の有効活用、もう1つの課題とは…
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