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民間企業の投資は経済成長の原動力だ。1980年代までの日本は、「労働制約」や「資源制約」に直面した際、企業の果敢な投資行動で最新技術を取り込み、生産性向上を実現してきた。他方、同じ時期の米国は投資が低迷し、産業競争力の衰退に悩まされていた。こうした企業投資における「日米経済の明暗」が「逆転」したのは、インフォメーション・エコノミーの源流である1990年代だ。今回はこの点をみていこう。
なぜ企業投資は重要か
「今起きていることの源流」として、
前回は1990年代に遡り、成長率と失業率の日米逆転を解説した。日本の成長率低下と失業率上昇は、家計部門を直撃しただけでなく、企業部門の活動にも大きく影響を及ぼした。
特に重要なのは企業の「投資行動」だ。GDPの約6割を占める家計部門の消費が落ち込み、全体の期待成長率が低下すると、企業の投資マインドが委縮し、需要と供給の両面で負のスパイラルを生み出す。
なぜなら、企業の設備投資は需要項目として「現在」の景気に強く影響すると同時に、投資の蓄積が資本ストックとなり、“2つの経路”で「将来」の供給力に深く影響するからだ(
連載の第109回参照)。
“2つの経路”とは (1)単位労働当たりの資本装備を高める経路と(2)最新技術を企業活動に取り込む経路を指す。
前者は、人間が素手で働くよりも道具や装置を使うと生産力が高まることを意味し、後者は、古い道具や装置よりも最新技術を装備した方が有利なことを意味する。
次々とイノベーションが湧き起こるインフォメーション・エコノミーの時代は、なおさらだ。新技術への果敢な投資によって、経済環境の変化に対応しつつ、企業の競争力を高めることができる。
「労働制約」の下で高成長を可能にする方法とは?
前回見たように、1990年代以前の日本は、高い経済成長が続く中にあって、労働力人口の増加は低位に推移し、ほぼ完全雇用の状態が続いていた。つまり「労働制約」が強い中で高成長を実現していたわけだ。
これを可能にしたのが労働生産性の上昇だ。労働生産性は資本生産性と資本装備に分解することができる。古い設備より新しい設備の方が資本生産性は高くなる。また、労働者が道具や装置をふんだんに使う方が生産性は向上するだろう。
経済成長率は、労働生産性と労働投入の増加率の和なので、結局のところ、経済成長率は、資本生産性(設備の効率)、資本装備率(労働当たり設備量)、労働投入量の変化に要因分解できる(図1)。
日本経済は、労働投入の増加率が低いという「労働制約」が作用する状況でも、企業の積極的な投資行動によって、資本生産性の高い最新設備を取り入れながら、単位労働当たりの資本装備を高め、高成長と競争力の強化を実現してきたといえる。
この投資行動こそが、さまざまな経済危機(ショック)を前向きに乗り越える原動力だったのだ。
【次ページ】企業投資で「資源制約」を乗り越えた日本
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