- 2025/04/25 掲載
関税だけではない、トランプ2次政権の「危険な本質」を知る「3つのリセット」とは
第1のリセット:既存の政策「パラダイム」からの脱却
まずトランプは、米国の政策を形作ってきた規準やルール、いわば”パラダイム”の多くをリセットした。「敵より友に厳しい」関税、対露から対中への「新冷戦シフト」、領土拡大や国際援助停止、国際機関離脱、NATOなど盟友にも容赦ない安全保障分担見直し、不法移民強制退去、そしてイーロン・マスク率いる新設「政府効率化省」による官僚機構刷新と大量解雇などだ。過去の連載でも解説したように、今政権のキーワードは、保守派総力を結集したトランプ政策集「プロジェクト2025」、米国第一主義、非効率な官僚制度の改廃と政府支出大幅削減、敵対者に対する制裁と報復である。
これらは一見”合理的”な目的があった。問題は、制度的パラダイムのリセットの目的や動機はばらばらで一貫した合理性を欠き、結局この政権は、それらを寄せ集めただけの「戦略不在」(ワシントン・ポスト主席政治解説者ダン・バルツ)であって、確実に有効な対応策を準備できないことかもしれない。
ここで注目したいのは、一貫性・合理性の欠如をもたらす背景の1つとして、トランプや側近の個人史や感情的こだわりの違いが、根深い政権内の対立要素となっている可能性である。
関税を例にとると、ワシントン・ポストによれば、トランプは長年国際貿易を嫌悪し、関税を愛してきた。「関税でディール」は、トランプが譲れない「長期戦略」だった。グローバリズムの自由競争の末路と中国の台頭が、トランプ個人の強烈かつ感情的な80年代教訓を思い出させたからだ。
80年代の教訓とは、日本による「米国買い」の脅威、「円高ドル安と高関税で米国製造業を再建するという1985年プラザ合意」の成功の記憶のこと。株式と債券市場の同時崩落でトランプが関税引き上げ停止を決めるまで、財務金融の第一級プロの財務長官さえ、持論の関税反対の立場をいったん後退させるしかなかった。
またレーガン以来の保守本流の「国際協調」と「市場経済自由主義」に代わる新たな経済モデルは何かという「行き先」、ないしビジョンにも、個人的動機や思い入れの違いが反映する。
庶民重視、製造業強化と再建を通じて労働者の収入レベルを上げるシステムへの移行を目指す点では、側近の意見はほぼ共通する。
しかしトランプを含むMAGA派、特に、荒廃した北東部製造業地帯出身で貧困から身を起こしたバンス副大統領や、金融界エリートがオバマ政権のリーマンショック対応の「裏切り」を契機に思想的に一転したバノン元首席戦略官は、個人史に由来する「被害者意識」、現行の政治経済システムとエリートに対する制裁色が濃い。庶民感情を代弁するポピュリズムと内向き指向が特徴的だ。
一方、政権の経済ブレーンであるオレン・キャス(※改革保守の思想と現政権の関係については、朝日新聞4月3日朝刊掲載のキャスのインタビュー記事を参照のこと)やルビオ国務長官の「改革保守」は、現行制度の破壊でなく「改良」、人材や政策でも既存勢力と折り合いをつける協調派穏健派で、個人感情よりも政策立案を優先する立場だ。
さて、現行のパラダイムやルールをリセットした先にある「問題解決の手段」は、政治に商売流の損得をもちこむトランプ得意の「ディール」や、ルールよりも「力」で解決する「プレデター(捕食者)大国主義」しかない。
民主・進歩・人道などの大義は後回しで、強気でブラフをかまし、Win-Winの落としどころを図る「トランプ交渉術」にブレーキが利かないのも道理だ。しかしリスクは大きい。個別のディールは、短期的損得勘定にこだわり、政治の公共に及ぼす中長期的影響を軽視しがちだからだ。特定国間の交渉であっても、ひとたび不況化懸念に火が付けば、株価は乱高下し、サプライチェーンを通じて世界不況の現実化という「予言の自己成就」をもたらしうる。 【次ページ】第2のリセット:三権分立の均衡を崩して大統領権限を極大化
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