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中国は「世界の工場」から「世界の市場」へと変貌する過程で、世界最先端のベンチャービジネス舞台に躍り出た。IT機器の製造ばかりでなく、シェアエコノミーなどITを活用した新サービスも次々と勃興している。FinTechもその一つだ。eコマースの決済から始まったアリペイ(支付宝)は、リアルな店舗や露店での少額決済にも幅広く活用されるようになった。ところが、国際金融センターの香港では、こうした新サービスの実装が中国本土ほどは進んでいないようだ。日本とも重なるこの状況について、前回に続き現地での聞き取り調査をもとにレポートしよう。
FinTechは従来の金融情報化とどう違うのか?
前回述べたように、香港はアジアを代表する世界の金融センターだ。そして現在、金融といえばFinTechの動向が気になる。
そもそも金融は、経済活動の中でとりわけITとの親和性が高い。過去を振り返っても、情報化投資の主要なけん引役となったのは金融業界で、コンピュータの商業利用が開始されたばかりのかなり早い時期から、積極的に取り組まれてきた。
だが、最近注目されているFinTechは、これまでの金融情報化とは一線を画しており、従来の延長線上で考えては、事態を読み違えることになりかねない。それは次の3つの理由による。
第1に、FinTechは、金融取引の中核を成してきた銀行などの金融機関とは全く別の業態が主導している点、第2に、金融システムが高度に発達した先進国のみならず、むしろ、それ以上に、金融システムが立ち遅れていた途上国や新興国で急速に発展している点、第3に、支払や送金といった表面的な金融取引の背後で、解像度の高い膨大なデータが収集・解析され、与信や保険などさまざまな金融サービスとの連携が創出されている点だ。
eコマースが提供するLeapfrogging型の金融システム
その象徴が中国最大手のIT企業アリババが提供するアリペイ(支付宝)だ。この仕組みは、クレジットカードが普及していない中国で、同社が運営するeコマース「タオバオ(淘宝網)」の決済を円滑に行う仕組みとして、2004年にサービスが始まった。
アリペイのアカウントには携帯電話の番号が用いられるため、個人間の送金や割り勘の精算なども容易だ。スマホの普及によって、今ではネット上のeコマース決済だけでなく、QRコードの読み取りを介して、リアルな店舗や露店での少額決済にも幅広く活用されるようになった。
これには、中国本土における決済システムの遅れが影響している。既存の仕組みの不便さやトラブルの多さがITを駆使した新たな課題解決の道を拓いているのだ。新興国や途上国における後進性が新技術導入による一気呵成の飛躍、すなわち、「Leapfrogging(かえる跳び)型発展」を促す一例といえるだろう。
世界最先端のベンチャービジネスに躍り出た中国
前回も触れたように、2001年のWTO加盟を機に「世界の工場」として存在感を増してきた中国は、所得水準の向上による購買力の高まりによって「世界の市場」として注目されるようになった。
こうした経済の変貌の中で、IT機器の製造分野における生産力や開発力のみならず、シェアエコノミーやFinTechなどITを活用したサービスの領域でも、世界最先端のベンチャービジネスが勃興する主舞台に躍り出たようだ。
旺盛な需要(
=所得に裏打ちされたニーズ)が生まれる一方で、既存の仕組み(需要を満たす供給体制)が急速な変化に追い付かず、そのギャップが新技術を駆使したさまざまな挑戦を促しているのだ。ギャップを迅速に埋めるべく、試行錯誤の途上であっても、まずは実装してみようとイノベーションの連鎖が起きている。
そうであれば、中国との関わりが深い香港は、国際金融センターの有力地として、最新のFinTechが大いに活用されていてもよさそうだ。ところが、日常の経済活動をみる限り、実装が進んでいるようにはみえない。これは一体なぜだろうか?
【次ページ】香港の中央銀行もFinTechに注目
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