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米テック大手グーグルが、金融の新プロジェクト「Cache」において、複数の金融機関と提携することを打ち出した。銀行にとっては自行のフィンテックアプリをグーグルが保有する月間10億人のアクティブユーザーに推薦してもらえるメリットがある一方、グーグルにも大きなメリットが存在する。本記事では「Cache」を軸に、金融領域におけるグーグルの今後の見通しを探る。これは将来「グーグル銀行」が誕生する前触れなのだろうか──。
2021年の始動を目指す「Cache」プロジェクトとは
グーグルは7月3日、2021年のサービスローンチに向け、新たに6行の米金融機関とデジタルバンキングの「Cache(キャッシュ)」プロジェクトで提携したと発表した。
今回、同社のパートナーとして参加したのは、バンクモバイル、BBVA USA、BMOハリス、コースタル・コミュニティーバンク、ファーストインディペンデンス・バンク、州公務員連邦信用組合(SEFCU)だ。昨年に提携したシティとスタンフォード大学連邦信用組合(SFCU)の2行と合わせ、グローバルな金融機関から信用組合まで幅広い選択肢を提供し、「モバイルファースト」「オンラインオンリー」の市場に斬り込む態勢を強化した。
「Cache」の詳しい内容はまだ公開されていないが、手軽なオンラインの口座開設、デビットカードの発行、Google Pay決済とのシームレスな連携、利用データ分析に基づく提案や人工知能(AI)予算ツールの提供、おトクなロイヤリティ・プログラムのポイント提供、グーグルが開発した統一インターフェースの活用などが取り沙汰される。
この「Cache」金融サービスの利用者は、提携行を通して米連邦預金保険公社(FDIC)または全米信用組合協会(NCUA)による預金元金の保証がついた当座および普通口座の利用ができる仕組みだ。金融サービスのコンプライアンス面は、銀行が担当する。これらの業務はテック企業にはマネのできない芸当であり、「餅は餅屋」ということであろう。
「Cache」で銀行が得るもの、グーグルが得るもの
金融機関にとってはフィンテック開発費の削減や、自行のアプリをグーグルの月間10億人のアクティブユーザーに推してもらえることによる新規顧客の獲得、知名度が低くてもメガバンクと対等に競争できる基盤、従来の地元密着型バンキングの地域割りの垣根を越えた全国展開など、大きな利点がある。
今、米国の金融機関は、支店や実店舗周辺の客のみを相手にする商売から、フィンテックを使って全国の潜在的な顧客を獲得する方向に動いている。そうした中、グーグルが開発したプラットフォームに乗り、安価に商圏を広げられる「Cache」は魅力的であるはずだ。
また、グーグルとのデータ交換により、銀行のサービスを充実させ、売り上げ向上に役立てることもできるため、「Cache」に参加する金融機関の数は増えてゆこう。
では、仕掛ける側のグーグルは「Cache」プロジェクトで何が得られるのだろうか。まず、金融ノウハウの吸収が挙げられる。同社には金融顧客へのサービスのあり方、コンプライアンス関係の経験、監督当局との付き合い方など、サービスの運営の根幹に関する知識も経験もない。
しかし、「Cache」を主導することで、金融機関の手法を「盗む」あるいは「コピーする」機会が生まれる。テック大手の規制分割論が高まり、当局や世論ににらまれたグーグルに、「銀行の庇(ひさし)を借りて母屋を取る」意図があるかは不明だが、少なくとも、そうしたチャンスが生まれることは確かだ。
事実、グーグルは「Cache」プロジェクトによって提携行を、Banking as a Service(BaaS)、すなわち「サービスとしての銀行」のプロバイダーに変質させようとしている節がある。金融機関が「免許で保護されたインフラ」から「テックサービス企業」になり、グーグルが金融ノウハウを吸収すれば、現在は銀行と対等な関係が一気にグーグル側の優勢に傾く可能性はある。
また、預金や決済がメインのグーグルのサービスにゆくゆくは「融資」が加わってゆくことも考えられる。まずは金融の知識と経験を手に入れ、ある意味でグーグルの「顧客」になる提携行の預金者の金融行動データを取得することが、第一段階となろう。
【次ページ】最終目標はデータ取得と蓄積
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