0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
共有する
新型コロナウイルスの流行で米経済は大きな悪影響を受けているが、すべての企業で否定的な結果を生んでいるわけではない。むしろこの局面だからこそ、チャンスをものにしている企業も存在する。米フィンテック分野において、春先のロックダウン以降に業績を急激に伸ばしているスタートアップの戦略を探る。
遅れていた非接触型フィンテックが、米で伸びる
米国人消費者は決済の方法に関して保守的だ。2018年の統計によれば、消費者決済の約30%を現金が占めている。一方で、現金を除く残り70%の決済はキャッシュレスなのだが、クレジットカードやデビットカード、小切手など非モバイル系の手段が主流であり、非接触型スマホ決済(NFC)やコード決済の普及は世界に比べて大幅に遅れていた。
ところが、コロナウイルスの流行で突如、非接触型の決済が伸び始めた。米マスターカードが4月に発表したアンケート調査によれば、特に生鮮スーパーなどにおいて51%の米国人が非接触型のクレジットカードやApple Pay非接触型スマホ決済などを常用するようになった。現金の受け渡しやチップ内蔵クレカの暗証番号入力による手指感染を懸念する消費者は、回答者全体の72%に上る。非接触型フィンテックが伸びるチャンスがやっと巡ってきたといえる。
事実、アップルと提携して非接触型のApple Cardを発行する米金融大手ゴールドマン・サックスのデイビッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)は、「Apple Cardは史上最速で成長しているクレジットカードだ」と業界の会合で語っている。アップルは、コロナ禍を機にApple PayによるQRコード決済の普及にも力を入れ始めた。
また、住宅ローン契約の手続きなども、米国は案外保守的であり、購入者や金融機関、不動産エージェント、エスクロー会社などが対面で行うことが主流であったが、感染のリスクをできるだけ低減したい関係者の声を受け、住宅ローンアプリが成長している。
シリコンバレー生まれの「Blend」というサービスは、住宅購入者がローン申請書をオンラインで記入提出できるほか、コロナ危機を受けて史上最低レベルに下がったローン金利をお目当てに借り換えを行う、持ち家保有者にも大人気である。住宅価格の査定や契約までがリモートで完結し、手数料も対面型と比較して抑えられているのは、まさに“ウィズコロナ時代のフィンテック”だ。
保守的な米国市場で「普及しない」と言われていた非接触型の決済や住宅ローン契約がコロナで伸びたことは、業界関係者に「やればできる」との自信を与えている。
預金よりも貯蓄フィンテック?
また、高所得層向けの資産運用フィンテック企業も好調である。手数料無料の株取引アプリで、ミレニアム世代に人気のある「Robinhood」は、新規ユーザー登録と取引量がコロナ禍の中で急増している。1~3月の間に、Robinhood 顧客は別の人気電子株取引アプリE-Tradeの取引量の9倍、証券大手Charles Schwabの40倍など、ロックダウン中にも好業績を上げた。また、類似アプリの「M1」および「Public」も伸びていると伝えられる。
一方、コロナショックを受けて米連邦準備制度理事会(FRB)が実施する低金利政策の下で、銀行にお金を預けても大した金利収入は期待できない状況がさらに悪化している。だが、貯蓄フィンテックのスタートアップであるSave Advisersは、銀行普通口座の平均年率金利1.6%の倍の平均3.2%というパフォーマンスで注目を浴びている。米連邦預金保険公社(FDIC)による元金保証が付き、安全な定期預金のように見えるのが人気の理由だ。
Save Advisersは1000ドルから預金を受け付け、それを株式・債券・不動産・コモディティなどに投資して、高いリターンをたたき出す。成功報酬型の運用手数料が、預かり金額の0.35%と手頃であるところも若い人にウケている。その他の類似アプリとして、「Acorns」「Betterment」があるが、リターンを還元できなくても手数料が徴収されるため、Save Advisers がより多くWeb検索され、選ばれているのだという。
【次ページ】コロナ時代に飛躍するフィンテック・スタートアップの特徴は