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- 2020/07/21 掲載
なぜコロナ禍でも成長? イスラエルのフィンテック最前線
劇的な日常生活の変化を支えている意外な国
中国のアリババやテンセントなどが火を付けた「キャッシュレス化」の波とモバイル決済機能を中心とした「スーパーアプリ」。その競争は既に日本でも始まっており、主役の座はメガバンクやクレジットカード会社から第三者決済サービス提供者に移りつつある。一方で、これまで出遅れていた銀行や郵便局など大手金融機関も独自アプリを投入して巻き返しの狼煙を挙げ始めた。こういった変化は、我々が日常的に活用する「決済(支払い)」の場面だけで起きているわけではない。デジタル化されたデータやAI(人工知能)を駆使することで、これまで法規制や技術的な制約で実現できなかったことが、一般的な消費者の目には触れない場所でも可能となっている。フィンテックの発展は、クロスボーダーの取引や中小企業への迅速な融資、個人の行動認証など、これまでになかったサービスや取引が海外を中心に可能になっている。
今回は、イスラエルEYのハイテク部門のトップであるオレン・バロン(Oren Bar-on)氏のインタビューをもとに解説する。バロン氏は、イスラエルのスタートアップエコシステムを作った一人であり、今もスタートアップ企業の80%以上の監査をカバーするほか、ほぼすべてのVCをクライアントとして抱えている。
イスラエルはなぜ、変革の最先端を行くのか?
イスラエルのスタートアップ企業は、2020年第一、第二四半期において総額48億ドルの出資額を記録した。2019年同期は44億ドルであり、前年比で10%の増加となった。バロン氏は「旅行・スポーツ・メディカルデバイスなどフィジカル中心の産業を除けば、新興テック企業はおおむね好調で、リモートワーク、デジタル化、サイバーセキュリティの分野での躍進が目立つ」と話す。また、フィンテックについては、コロナの波が従来の銀行の経済活動のデジタル化に拍車をかけている一方で、銀行の変化がスピードアップしたことで、フィンテック企業が食い込む余地も以前より少なくなってきているとの見解を示す。
直近の動きとしては、保険手続きをすべてデジタル化してブローカーや書類手続きを簡素化するサービスを提供している新興保険テック企業のレモネード(Lemonade)が2020年7月2日にニューヨーク証券取引所でIPOを果たしている。
バロン氏は業界を通じて、概ねポジティブな状況とみている。「EYが初めてIPOを手伝ったチェックポイント(Check Point)は今では時価総額が150億ドルを超えている。また、Lemonadeを含めてイスラエルのスタートアップ20社以上がNASDAQに上場しています」と胸を張る。
イスラエルのテック企業が好調である3つの理由とは?
なぜ、日本や他の国と比べてイスラエルのテクノロジー企業が好調なのか。バロン氏はその理由として3つの観点を挙げている。1つ目は、イスラエルの代名詞である「スピード経営」だ。たとえば、イスラエルの医療領域のスタートアップ業界では、国が2020年3月上旬にロックダウンを宣言して1週間後には80社がコロナ感染症対策ソリューションを世の中に打ち出している。
そのスピードと変化への対応力は、世界を驚愕させた。その他にもライドシェア企業が医療従事者向けのサービスを立ち上げたり、レストランの調達アプリが個人向けのサービスを開始したりするなど、コロナ危機の最中に資金調達を成功させている。
2つ目は、スタートアップを支えるエコシステム全体を守るため、「政府が多岐にわたる支援策を発表した」ことが挙げられる。現在、特に小さなスタートアップは新たに資金を調達することが困難な状況にある。イスラエル政府は、PoC(概念実証)やマーケティング、セールスといった新たな活動を開始する際に、簡単なプロセスだけで1カ月以内に補助金を提供することを決めた。
また、これまでの資金供給の流れが枯渇しないよう、スタートアップだけでなくベンチャーキャピタルへの対応策として、機関投資家がスタートアップへの投資から損失を期した場合、最高40%までを保証することを約束して投資の滞りを防いだ。
3つ目は「豊富なAI/人工知能の人材」にある。イスラエルは、GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)やインテル、IBMをはじめ約400の多国籍企業のR&D(研究開発)拠点が集結していて、「NEXTシリコンバレー」とも言われている。
加えて、圧倒的な軍事技術、数学や物理・コンピュータサイエンスに力を入れる教育制度、歴史的にロシア研究者を移民として多く受け入れてきたなどの複合的な理由から、特にAI/人工知能に携わる人材が豊富なことで知られている。また国内はさまざまなデータをオープン化しスタートアップや多国籍企業がAIを活用した研究を自由に行うことができる土壌が整っている。
【次ページ】サイバーセキュリティ技術がイスラエル企業をけん引
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