- 会員限定
- 2021/11/24 掲載
成功体験を捨てられず20年続く「デジタル敗戦」、その深すぎる背景とは 篠﨑教授のインフォメーション・エコノミー(第140回)
-
|タグをもっとみる
柔軟な組織構造の弱点とは
デジタル化と軌を一にして長期停滞に陥った日本経済について、前回は、かつて評価されていた「日本型コミュニケーション」の特徴を手掛かりに原因を探った。今回は、この分析をもとに、企業内部の組織構造の面から、長所が短所に逆転していった要因を考えてみよう。1980年代に絶頂期を迎えた日本経済について、前回参照した『平成2年度年次経済報告(以下「白書」)』では、組織構造も成功要因の1つだったと分析されている。それによると、日本型の組織は、「大まかな分担は決まっているものの、必要に応じて相互に協力する」点に優れた特徴があった。
この特徴が「“横”の情報伝達に代表される多角的な情報の流れにおける相対的優位性」を生み出し、「特に応用分野における技術開発力、製品開発力の国際的にみた強さ」につながったと評価されている。
確かに、こうした組織構造は、異なる部署間の微妙な調整では力を発揮するだろう。その一方で、各部署の役割分担が不明瞭となり、部署間の境界を曖昧(あいまい)で込み入ったものにしてしまう側面が伴う。これがデジタル化では弱点になるのだ。
メガバンクにみるDX失敗のリスク
デジタル化は、あらゆる企業に抜本的な仕組みの見直し=DX(デジタルトランスフォーメーション)を迫っているが、重要なのは、単に新技術を導入して、従来の仕組みをデジタル化すれば事足りるものではない点だ。連載の第32回で考察したように、DXでは組織の境界を引きなおすような「分業と比較優位構造の見直し」が求められる。各部署の役割分担が不明瞭で、境界が込み入った状態であれば、その実行に際してかなり手間がかかってしまうだろう。
そもそも、部署間の境界があいまいなら、部門毎の明確な利益管理は困難だ。それは組織の見直しを合理的に進めるための客観情報が不足することを意味する。客観情報の不足は、利益に基づく判断よりも人の配置といったポスト問題を優先させることにつながりやすい。
これでは、DXが失敗に帰結するリスクが高まる。複数行の合併で誕生したメガバンクの中には、システム障害を度々繰り返す事例がみられるが、何より深刻なのは「その原因が判らない」という点だ(日本経済新聞[2021])。
【次ページ】情報システムは企業の内部構造を映し出す鏡
関連コンテンツ
関連コンテンツ
PR
PR
PR