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  • 2021/10/20 掲載

なぜ負け続ける? 「デジタル敗戦」で露呈した日本型コミュニケーションの弱点とは 篠﨑教授のインフォメーション・エコノミー(第139回)

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ビジネス環境が大きく転換する時期には、それまで有利だった条件が不利な条件へと逆転することも多い。さまざまな危機を乗り越える中でかつて称賛されてきた「日本型コミュニケーション」もその1つのようだ。冷戦終結と同時に押し寄せたデジタル化と軌を一(きをいつ)にして日本経済は停滞局面に陥った。その後、長期にわたってこの陥穽(かんせい)から抜け出せないのはなぜか。今回は「企業内の仕組み」に焦点を当てコミュニケーションの特徴からその原因を考えてみよう。
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「日本型コミュニケーション」の弱点とは
(Photo/Getty Images)

デジタル化と軌を一にした日本経済の停滞

 前回みたように、当面の失業を回避する日本型の雇用システムは、目の前の危機に対する短期的な対応としては、個人の生活と社会の安定にとって望ましい。

 だが、長所と短所はコインの表裏だ。労働市場に組織原理を浸透させるこの仕組みは、企業内の人材と結びついた「業務の見直し」で、現状維持の力学を生みやすい。イノベーションの渦中にあって、それは「変化」を阻む力学にもなり得る。

 「変化」という点で、1990年代は、冷戦終結と同時にデジタル化の波が押し寄せ始めたグローバルな転換期だった。この変化と軌を一にして、日本経済は停滞局面に入り、その後、国際的地位をズルズルと下げ続けてきた

 それまで国際的な経済危機を何度も乗り越え、1980年代には優れた仕組みと称賛された「日本型システム」が情報革命の本格化と共に威力をなくしたのはなぜか。今回は「企業内の仕組み」を手掛かりにコミュニケーションの特徴から考えてみよう、

優位性を発揮した日本型コミュニケーションの特徴とは

 連載の第128回で解説したように、かつて称賛された「日本型システム」を分析するには、『平成2年度年次経済報告(以下「白書」)』が有益だ。それによると、「企業内の仕組み」としては、「人的ネットワーク」による「インフォーマルな情報」の流れと「部門間の境界の曖昧さ」が日本型の特徴とされる。

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図表1 米国型と対比した日本型の「企業内の仕組み」
(出典:連載128回の図1より転載)

 企業内のコミュニケーションについて、「白書」では、たとえば新製品の研究、開発、企画、生産、販売など部署間での情報共有の面で、上記の特徴が競争優位の源泉になったと積極的に評価されている。

 たしかに、長期雇用を基本とし、ローテーション人事でさまざまな部署に顔見知りがいる日本型企業では、根回しなどインフォーマルな人的ネットワークによるコミュニケーションが潤滑油の役割を果たし、部署の壁を越えた柔軟な連携で総合力を発揮することができたであろう。

対面重視の人的ネットワークの盲点とは

 だが、優れた人的ネットワークへの過度の依存が思わぬ盲点を生んだ。コンピュータ・ネットワークなど「機械系ネットワーク」の機能と役割が重視されず、新技術導入の遅れにつながったことだ。

 図表2は、「白書」が日本型システムの特徴を示す根拠として取り上げた資料だ。米国企業と比較して、日本企業は、会議、文書、FAXの割合が高く、コンピュータ、LAN、EOS、VAN、POSといった当時としては新しい情報技術の構築に出遅れてしまった。

(備考)LAN:Local Area Network(オフィスなど閉鎖域内のネットワーク)、EOS:Electronic Ordering System(電話やFAXではなく電子データによる受発注システム)、VAN:Value Added Network(音声ではなくデータなど新たな付加価値のある通信網)、POS:Point of Sales(コンビニの店頭でみられるような販売時点での情報管理システム)

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図表2 日米企業の情報収集体制
(出典:経済企画庁(1990)p.162, 第2-2-1図より一部を抜粋)

 優れた「人的コミュニケーション」の存在が、逆に、技術革新の入り込む余地を狭めてしまったのだ。この状況が長く続いた結果、日本企業では新技術をコミュニケーション手段として使いこなす土壌がうまく育たなかった。

 デジタル化の波が押し寄せたのは、まさにこの領域だ。1990年代のインターネット普及により、コンピュータは独立した単体利用にとどまらず、オープン・ネットワーク型の活用へと進化した。

 それまでの単なる情報処理マシンから有効なコミュニケーション手段へとフェーズが転換(相転移)したのだ。

【次ページ】オフショアリングが容易な米国型とテレワークが進まない日本型
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