経済社会にとって、生産性の向上は重要な意味を持つ。ノーベル経済学賞を今年受賞したポール・クルーグマン(※1)が、かつて、「生産性がすべてというわけではないが、長期でみるとほとんどすべてである(Productivity isn't everything, but in the long run it is almost everything.)」と指摘したように、生産性は経済社会の全般的な生活水準(living standard)を表すからだ。
さて、経済学には、経済全体の動きを大きくとらえる「マクロ経済学」と、企業や消費者といった経済主体の行動から市場の機能をとらえる「ミクロ経済学」がある。これまで述べてきた経済成長や生産性は、マクロ経済学が取り扱う主要テーマだ。したがって、ITの進歩と普及、利活用にともなう経済全般への影響を、経済成長、生産性、雇用、企業行動などの面から分析する情報経済研究(Analysis on Information Economy)は、まさにマクロ経済学の領域といえる。
情報化にともなう経済社会の変貌を大きな視点でマクロ的にとらえる議論は、従来から情報化社会論(Information Society あるいはInformatization)として盛んだった。ただし、この種の議論は、経済学の枠を超えた壮大な概念で進められがちで、未来論や文明論の色彩を帯びやすかった。そのため、厳密な議論を重んじる経済学の主流派からは異端視されることが多く、残念ながら、マクロ経済学の主要な分析対象にはなっていなかった。
編集注釈 (※1)ポール・クルーグマン
Paul Robin Krugman。米国の経済学者、プリンストン大学教授。貿易パターンと経済活動の立地に関する分析で2008年にノーベル経済学賞を受賞。
(※2)アンガス・マディソン
Angus Maddison。グローニンゲン大学教授。OECDから『Monitoring the World Economy,1820-1992』を出版。
(※3)ジョセフ・E・スティグリッツ
Joseph E. Stiglitz。米国の経済学者、現在はコロンビア大学教授。情報の非対称性の理論で2001年にノーベル経済学賞を受賞。世界でもっとも影響力のある経済学者の1人と言われる。