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  • 2010/10/28 掲載

ロビンソン・クルーソーの冒険物語で「情報」を考える:篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(23)

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ITの導入が生産性の向上に寄与することは検証されたが、そうした効果は自動的に生まれるわけではない。ITの導入にあわせて、業務の見直しや人材の再訓練などを行い、かつてITがない時代に形成された古い仕組みを改めることが重要だ。その本質を追うと「分業に基づく交換」という経済活動の基本構造にたどりつく。今回は、子供のころに読んだロビンソン・クルーソーの冒険物語でこの点を考えてみよう。

情報経済学から産業組織論へ

 一連の生産性論争を通じて、ITは生産性や経済成長の加速に影響を与えるというコンセンサスが産業界でも学界でも形成されていった。ただし、そうしたプラスの効果は、ITを導入するだけで自動的に達成されるわけではない。連載の第1回目で解説したように、さまざまな実証分析で明らかになったのは、ITの導入にあわせて業務の見直しや人材の再訓練といった企業改革を実施し、かつてITがない時代に形成された古い仕組みを改めることの重要性だ(図1)。

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図1 生産性論争で明らかになったこと

 ミクロ経済学の中から生まれた情報経済学は、当初こそ傍流の扱いであったが、精緻な論証の積み重ねによって、情報の非対称性とその克服手段に関するさまざまな概念が生み出され、今ではミクロ経済学の主流に位置づけられるようになった。それらの概念の一部は、組織と制度に関する問題にも応用されて、内部組織の経済学や産業組織論へと展開していった。ITの導入に伴う仕組みの見直しは、まさにこの領域の議論に深くかかわってくる。

 連載の第6回では、情報の非対称性を克服する手段として、情報をより多く有する側が発する「シグナリング」や情報の少ない側が工夫することで相手の情報を引き出す「スクリーニング」に加えて、現実の社会は「組織と制度」の形成で対応していると述べた。ITによる仕組みの見直しを考える際には、この点をさらに掘り下げて、企業組織、産業組織、市場制度について、それぞれの基本概念を理解しておくことが欠かせない(図2)。

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図2 主流派経済学と生産性論争の関係

流行り言葉よりも古典をおさえておくほうが応用力が高まる

 情報経済の分野には、変化の激しい現象面を追いかけたさまざまな横文字の概念が溢れかえっている。それだけでめまいがしそうだが、次々に生まれる奇抜な流行語(バズ・ワード)を追いかけるよりも、むしろ古典と呼ばれるような土台のしっかりした概念をおさえておく方が実は応用力が高まる。

 IT導入との関係で「組織と制度」の問題を読み解くには、経済学の礎を築いたスミスやリカード、ノーベル経済学賞を受賞したロナルド・コースやダグラス・ノースが提起した概念が役立ちそうだ。第一に、企業内部における組織の問題は「分業による特化」と「比較優位」領域の見直しを、第二に、企業間における組織の問題(=産業組織の問題)は、企業の境界を引き直すような「社会的分業」の見直しを、第三に、企業が活動する舞台装置としての市場は、それを支える「さまざまな制度」の見直しをそれぞれ要求してくるからだ(図3)。

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図3 仕組みの見直しと経済学の古典

【次ページ】なぜ「情報」が問題になるのか?ロビンソン・クルーソーの世界で考える
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