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- 2020/07/22 掲載
歴史から学べるDXの教訓、技術革新の渦中ですべき経済構造の転換とは? 篠崎教授のインフォメーション・エコノミー(第124回)
篠崎教授のインフォメーション・エコノミー(第124回)
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情報革命の波に乗るには何が必要か
日本経済のデータを実際に適用してクライン型モデルを推定すると、成長率を1~2%程度加速させる潜在力があると検証されたのだ。ただし、それには古い技術体系のもとで形成されてきたさまざまな「仕組みの変革」 、すなわち「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が欠かせない。
なぜこうした変革が必要なのか。その本質については、経済学の基本概念に立ち返って連載の第32回(企業改革)と第40回(制度改革)で解説したとおりだ。今回は、さらに歴史からの教訓を長期遡及データに基づいて考察しよう。
過去400年の各国のGDPの推移を比較すると……
まったく同一のパソコンを起動して、米国と日本で動作の仕方が異なることはない。科学技術の原理や法則は世界に普遍的だ。だが、同じ技術を基盤としても、経済発展の軌跡は各国で異なる。世界に伝播する新技術を梃子(てこ)にすべての国が繁栄を手にするわけではないのだ。たとえば、ODA(政府開発援助)で技術移転を行なった場合も、現地にうまく根付いて経済発展の基盤になる例もあれば、数年後には放置されたままとなり、従前の経済状態から脱却できない例もある。
これもまた、産業革命後の世界の歴史が示す厳然たる事実だ。グローニンゲン大学のアンガス・マディソン名誉教授がOECD(経済協力開発機構)のミレニアムプロジェクトで取り組んだ労作がそれを如実に証明している(Maddison[2001])。
このプロジェクトでは、西暦1年から現代に至るまでの世界各国の経済規模の推計が行われた。図1は、その中から西暦1600年に遡り、日本、米国、西欧、アルゼンチン、アジア(除く日本)、中国、世界全体の1人当たりGDP(国内総生産)を示した図表だ(図表1)。
日本の歴史に当てはめると「関ケ原の戦い」から「長野冬季オリンピック」までの約400年という長期の時間軸だ。ちなみに1998年は旧4大証券会社の一角だった山一証券が廃業し、旧長期信用銀行制度の一翼を担った日本債券信用銀行が経営破綻した年だ。
年率1%未満の差が孫の世代には2倍の格差に
一人当たりGDPは最も一般的な生産性の指標で、豊かさや生活水準を示す指標でもある。時代と共にインフレーションで物価水準が大きく変化するため、比較しやすいように1990年時点の物価水準に調整されている。図表1からは2つのことが読み取れる。第1に、中世まで世界文明の一角を占めた東洋(アジア)の社会は、19世紀に工業化の波に乗り遅れたということだ。西欧社会は英国を起点とする産業革命(工業化の波)により、19世紀に飛躍的な生産性向上を遂げて豊かな社会を実現した。
工業化の勢いは世界に及んだが、東洋の社会はこの波に乗り遅れた。19世紀中に工業化の軌道に乗った日本は稀有(けう)な例と言える。その節目となった社会変革は1868 年の明治維新で、その後の文明開化、殖産興業、国民皆教育政策につながった。
第2は、産業革命後の世界は、変化し続ける「しなやかさ」と「覚悟」が求められる点だ。これはアルゼンチンと西欧を比較するとよく分かる。20世紀初頭(1913年)には西欧に匹敵する豊かな農牧国だったアルゼンチンが、第二次産業革命の波にうまく乗れず、20世紀末には西欧の半分の生活水準に甘んじる結果となった。その後、2001年にはデフォルト(対外債務の支払い停止)の事態に陥った。
ここで注目すべき点は、その間(1913~1998年)の生産性上昇率だ。アルゼンチンと西欧の開きは、年率でわずか0.9%に過ぎなかった。この年率わずか0.9%の開きが85年後(1世代を25~30年とすれば孫の世代)には、2倍の差になったわけだ。
短い時間軸では小さな差に見えても、世代を超えた時間軸では、生活水準の大きな格差に帰結することがこの歴史的事実から実感できる。
【次ページ】東西ドイツの事例から見える“格差の原因”
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