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社員を休業させた企業に対して賃金の支払いを補助する「雇用調整助成金」の活用が進まない。同制度は、本来であれば雇用を守る最初の防御壁となるはずだったが、その役目を果たすことはできなかった。ドイツやフランスにも似たような制度があり、両国では有効に作用している。なぜ、同じような制度を持ちながら、こうした違いが生じるのだろうか。
新型コロナ禍で、なぜ雇用調整助成金は機能していないのか
雇用調整助成金は、雇用保険を使った支援制度で、経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主に対して、休業させた社員の賃金の一部を補助するものである。この支援を受けるためには、売上高といった指標が3カ月で10%以上低下していることや、事前に休業計画書を提出するなどの条件があるが、これらは今回の新型コロナ危機で大幅に緩和された。
助成の割合についても、当初、中小企業は賃金の3分の2、大企業は2分の1とされていたが、中小企業は5分の4に、大企業は3分の2へと拡大されたほか、解雇を伴わない場合には、中小企業は10分の9に、大企業は4分の3に増額されることになった。
政府は「新型コロナウイルス等対策特別措置法」に基づく緊急事態宣言を発令したが、都道府県から休業要請を受けた事業者に対しては、一定条件下で100%を助成する措置も決定している。企業にとって人件費負担は重いので、全額補助されることの意味は大きい。
雇用調整助成金制度はもともと労働者の賃金を補助することで、企業が雇用調整をやりやすくするために導入されたものであり、今回のような危機には使いやすい仕組みといって良い。新型コロナの流行以前からすでに存在していた制度を、現状に合わせて条件を変えればよいだけなので、理屈上、迅速な対応が可能である。
実際、政府は感染拡大が本格化した段階で、いち早くこの制度の活用を打ち出しており、多くの関係者が初期段階における雇用維持に大きな威力を発揮すると期待していた。ところが現実は正反対だった。
制度の適用条件を大幅に緩和したにもかかわらず、実際に助成の適用を受けることができた企業はごくわずかにとどまっている。それどころか、申請すらままならないという状況が続いており、現実問題として雇用調整助成金の制度はあまり機能していない。では、具体的に何が問題なのだろうか。
ドイツでは申請から入金まで15日、日本の対応が遅い理由
もっとも大きな理由が、雇用調整助成金の申請に必要な項目の多さである。
助成金を申請するための書類には73もの記載項目があり、作成作業が繁雑になっているとの問題が指摘された。このため厚生労働省は手続きの簡素化を打ち出したが、それでも38項目が残っており、添付書類も膨大な数にのぼる。中小企業の中には、そもそも労務管理を書面で行っていないところもあり、そのような企業の場合、添付書類自体を用意できない状況に陥ってしまう。
加えて、手続きが煩雑であるが故に、労働局の窓口が大混雑するという問題も発生している。記載事項が複雑だと書類の不備といった問題が発生しやすく、再提出が繰り返されるので、これが大きなボトルネックとなる。
厚生労働省では非常勤職員の採用などを進め、現在1500人の窓口体制を3900人に増やすとしているが、体制が拡充されるまでには時間がかかるだろう。オンライン申請は5月中旬にスタートするが、窓口でしか申請ができなかったという点も処理に時間がかかった要因の1つである。
海外に目を転じると、ドイツやフランスにも似たような制度があり、手続きは迅速に進んでいる。
ドイツでは制度の適用が発表されると多くの企業が申請を行い、その数は3月末時点で47万社に達した。入金までの期間も短く、申請から約15日で企業に資金が入るという。
手続きもシンプルである。もともと、ドイツでは助成金の申請に2ページの申請書類と、同じく2ページの休業計画書、従業員の労働実態を示したリストの3つがあれば受理される仕組みであったが、今回の新型コロナ危機では簡略化された1ページの申請書類とリストのみで申請ができるようになった。また、パソコン上で必要事項を入力し、オンラインで申請できるので窓口が混雑することもない。
直接的には「手続きの煩雑さ」と「オンライン対応の有無」が日本とドイツの違いの原因だが、問題の本質はそこではない。もっとも重要なのは、なぜ今までこうした煩雑な制度が放置され、オンライン化が進んでいなかったのかという部分である。もちろん役所の側に大きな問題があるのは事実だが、それだけが原因とは言い切れない側面があるのだ。
【次ページ】ドイツとの差はどこか、日本が抱える根本的な課題
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