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- 2022/08/11 掲載
第7波によって医療崩壊寸前。コロナで露呈した日本の医療の限界
医療は、日本が世界に誇れる唯一の制度だが…
よく知られているように、日本では国民皆保険制度が整備されており、保険料の滞納さえなければ原則として3割の自己負担で病院にかかることができる。これに加えて、高額療養費制度という仕組みがあり、がんなど高額な費用がかかる疾患については、上限を超えた分については全額公費で賄われる。このため、貧富の差に関わらず、誰でもごくわずかな自己負担で、最先端の治療を受けることが可能だ。がんや心疾患などで手術や入院を繰り返した場合、医療費の総額が1,000万円を超えることも珍しくないが、日本の場合、実際に患者が負担するのはごくわずかな金額で済む。もし、国民皆保険制度がなく、医療を自費でカバーする仕組みだった場合、重篤な病気になると1,000万円以上をすべて自身の貯金(あるいは高額な民間の保険)から支出しなければならない。
死因のトップががん、2位が心疾患であることを考えると、多くの国民が一生のうち1回は重篤な疾患にかかる可能性が高い。加えて、日常的なケガやインフルエンザ、歯科などの通院費用を考えると、国民皆保険制度がなければ、中間層以下の人がまともな医療を受けることは不可能である(実際、国民皆保険制度がない米国では、経済的理由で病院に行けない人が何千万人もいる)。
日本の諸制度は、先進諸外国と比較して見劣りするものばかりというのが現実だが、医療についてだけは、世界に誇れる数少ない制度と言って良いだろう。ところが、コロナ危機をきっかけに、世界に誇るべき日本の医療制度の限界が露呈しつつある。
日本では医療従事者に過度な負担がかかっている
わずかな自己負担で、誰でも最先端医療にアクセスできる環境を維持するためには、莫大なリソースが必要となる。戦後の日本経済は基本的に成長が続いていたので、この制度もなんとか維持することができたが、90年代以降、日本経済はほぼゼロ成長が続き、所得が伸び悩んでいる。このため制度の根幹となっている保険料収入が増えず、一方、医療費は高齢化によってうなぎ登りで増加する事態となっている。こうしたところに発生したのがコロナ危機である。新型コロナウイルスの感染拡大によって、恒常的に医療逼迫が生じているのは、先進国では日本だけである。医療逼迫が発生する個別の原因は多くの論者が指摘しているが、それはあくまで個別の事由に過ぎない。マクロ的に見た場合、日本でだけ医療崩壊が発生する理由ははっきりしている。それは国民皆保険制度を維持するため、医療機関が常にギリギリの運営を余儀なくされており、非常時に対応するだけの余力がないことである。
経済協力開発機構(OECD)の調査によると、日本における人口1000人あたりの病床数は約13.0と、加盟国では断トツのトップである。各国の平均値は4.5なので、日本には諸外国の3倍近い病床が存在していることになる。一見すると医療制度が充実しているように見えるし、多くの論者はこのデータを根拠に日本では医療逼迫が起きるはずがない(つまり誰かがスムーズなコロナ対応を邪魔している)と主張しているが、現実は違う。
病床が多い分、本来なら医師や看護師といった医療従事者の数も多くなければいけないが、医師や看護師の人口あたりの人数は諸外国とほぼ同じである。つまり、日本の医療従事者は膨大な数のベッド数に対応するため、諸外国の約3倍の患者を診ている状態であり、恒常的に医療従事者に過度な負担がかかっているのだ(たしかに、一部の要因でコロナ対応がスムーズに進まないケースはあるだろうし、そうであれば当該部分については改善すべきだが、あくまで個別のケースであって、医療逼迫全体の問題とは言えない)。
【次ページ】コンビニ医療が発生する根本原因
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