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- 2021/02/02 掲載
日本でも起きる?米国「ワクチン配布」で問題噴出する深い事情
連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
米国では2020年12月からワクチン接種が開始
米連邦政府は、新型コロナウイルスワクチンや治療薬の開発・製造を支援するプロジェクトである「Operation Warp Speed(ワープスピード作戦)」を指揮し、驚くべき速さで、製薬企業に2種類の有効とされるワクチンを開発させることに成功した。2020年12月からは実際の接種が始まり、当面の課題は「いかに効率的に、最もリスクの高いグループにワクチンの配布と接種を行うか」に移っている。一般への接種を始める前に、医療の前線でウイルスと闘う医療従事者、死亡リスクが高い高齢者、対面での仕事に従事する食料品店の従業員や教職員、入院や死亡リスクを高める既往症を持つ人などが優先的にワクチン配布を受ける。対象者が多い上、関係者が多岐にわたるため、優先順位を決めるのに、鉛筆を舐めながら人手で行っていてはとても間に合わない。
そこで「アルゴリズム」(コンピュータプログラムによる計算方法)が登場する。人間とは違い、「俺を優先しろ」などという脅しに屈することはなく、直訴で心が動いたり、賄賂を受け取ったりすることもない。定められた同じルールをすべての対象者に平等に当てはめて順位を決定するだけであり、しかも計算スピードが人間とは比べ物にならないほど速く、何より効率的である。生産初期で供給が限られたワクチンの配布には打って付け、というわけだ。
米国で採用されるワクチン接種のアルゴリズムとは?
米国では、連邦政府が各州へのワクチンの割り当てを決める際に使用されるのをはじめ、連邦政府から供給を受けた州政府が各医療機関や高齢者施設への優先順位を決定するに当たってもアルゴリズムが使われ、供給の末端においては、病院組織内などでの順位を定める時にも活躍している。まず、連邦レベルにおいては、シリコンバレーの伝説の起業家ピーター・ティールにより設立された、ビッグデータ解析を専門とするパランティア・テクノロジーズが開発した「Tiberius」(ティベリウス)と呼ばれるシステムを使い、全米の人口構成や各種医療データに基づいて各州への割り当てを決定する。ワープスピード作戦の担当者は、「シンプルで公平、かつフェア」な仕組みだと胸を張る。
具体的には毎週木曜日に、ワクチン製造を手掛けるファイザーとモデルナが連邦政府に次週の供給量を通知する。連邦政府は、その内の少量を非常用として備蓄し、残りを各州のために放出する。金曜日には放出データを基に、Tiberiusのアルゴリズムが州別の成人人口と接種率を勘案した上で、供給量を決定する。土曜日には、各州がTiberiusの算出した数量を基に最終発注を行い、月曜日に現物を受領するという流れになっている。
一方、州レベルにおいては、各州がそれぞれ違うアルゴリズムを採用しており、またその内容も公表されていないことが多い。情報公開に積極的な数少ない州のひとつである、中西部オハイオ州のアルゴリズムは独自に内製されたもので、州内各郡の(1)人口、(2)現在陽性である感染者総数、 (3)推定免疫レベル、(4)社会的弱者の多さ、(5)医療格差などのデータがアルゴリズムにかけられ、郡別の供給量が決められる。また、過去のインフルエンザ予防接種率も参考として加味される。
最優先で接種を受けられる医療従事者については、医療機関が提出した年齢や職種などのデータが判断基準として使用される。ただし、どの要素にどれだけの点数が与えられ、いかに計算されるかは不明だ。
このようにして州ごとに供給されたワクチンは、初期分が医療機関のスタッフ向けに回される。たとえば、大組織である西部カリフォルニア州のスタンフォード大学では、独自開発の「接種順位スコア」と呼ばれるアルゴリズムを用いて医療従事者の接種の優先順位を決めている。具体的には、入院・死亡の高リスクグループである65歳以上の高齢者には自動的に一定の「ボーナスポイント」が与えられるなどの点数加算で順番を決める。
【次ページ】なぜ理論通りにアルゴリズムが機能しないのか、日本が米国の経験に学ぶべきこととは
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