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新型コロナウイルスの大流行を受けた都市封鎖(ロックダウン)の実施で大打撃を受けた米経済。だが、最悪の「大恐慌」は少なくとも当面は避けられたようだ。4~6月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)は前期比年率換算で31.4%も減少したが、7~9月期には30%以上の増加が見込まれる。一時は15%に迫った失業率も8%未満に低下し、消費も予想以上に力強い。一方でコロナ入院患者が急増し、第2波襲来が現実化する今、この回復の勢いが続くためには何が必要なのか、論点を整理する。
失業率は半減?否定された悲観論
米経済がロックダウンによる低迷で落ち込んだ際、専門家の間では極端に悲観的な見通しが語られていた。景気後退を通り越して、1930年代初頭のような大恐慌の再来を懸念する声さえあった。
失業保険申請が急増する中、ミシガン大学のジャスティン・ウォルファーズ教授は5月中旬の失業率を1933年の世界恐慌期に記録した米史上最高の24.9%と並ぶ水準になると予想し、セントルイス連邦準備銀行のブラード総裁は失業率が6月までに30%に上昇するとのさらに厳しい予測を示した。しかし、5月には一部の州で対面式の経済が再開したこともあり、失業率の最悪ピークは5月の14.7%にとどまった。経済再開が本格化した9月にはこれが7.9%にまで急低下している。
また、米消費はGDPの約7割を占めることから、「消費は米経済そのもの」だと言われるが、米商務省が発表した9月の米小売売上高(季節調整済み)は前月比1.9%増の5,492億ドル(約57兆8千億円)と引き続き好調で、米経済の底力が改めて認識された。この数字が特に意義深いのは、失業保険給付に1週間当たり600ドルが加算されるという“補助輪”が7月末に外された後でも、消費が伸びたことを示しているからだ。
コロナ禍の経済低迷で非常用の貯金におカネを回さず、なぜ消費をするのかと訝(いぶか)る向きもあるだろう。しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)が歴史的な低レベルにまで金利を下げたため、以前により高い金利で借りた住宅ローンや自動車ローンを低金利のものに借り換え、その結果として毎月のローン支払額が低下したことで家計に余裕が生まれた。それにより、財布のひもが緩む消費者が多いのだという。
借り換えだけではなく、住宅市場と自動車市場における新規販売もまた、低金利によって手が出しやすくなっており、好調である。家電製品や家具の売れ行きも伸びていることが報告される。米国人は貯蓄よりも消費を好む傾向があることも、大きな理由だ。
さらに、中小企業の景況感もパンデミック後の最高レベルを記録するなど、雇用の回復と消費者のコンフィデンスの底堅さを物語っている。米アマースト・ピアポイント証券のチーフエコノミストであるスティーブン・スタンリー氏は、「9月の消費データは、エコノミストやアナリストたちの間で広範に唱えられた悲観論が間違っていたことを示すもうひとつのサインだ」との見解を表明した。
失業率が6月までに30%に上昇するとの悲観論を示したセントルイス連銀のブラード総裁でさえ、10月に入って「米経済の見通しは明るい。米国債のイールドカーブ(利回り曲線)もここ数か月、銀行が融資を活発化し、企業も新規事業を打ち出しやすくなる順イールドの傾きが大きくなっている」と述べるなど、全体的に楽観論が支配的となって来た。
さらに興味深いのは、ブラード総裁が「ここまで来れば、連邦政府の財政出動なしでも経済回復は腰折れしない」とまで断言していることだ。
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