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- 2024/11/28 掲載
「痛みの少ない注射針」の意外な開発裏話、テルモ開発者が「当たり前」を超重視するワケ
連載:イノベーションの「リアル」
「極細」注射針開発のきっかけとなった「ある一言」
(アクト・コンサルティング 野間 彰氏)──大谷内さんは糖尿病治療に用いられるペン型注入器用注射針をはじめ幅広い分野の医療機器を開発されています。まず、開発者として大事にしていることを教えてください。大谷内 哲也氏(以下、大谷内氏):研究開発においては、「ぶれることなく実現できるまで徹底的に考え行動すること」を大事にしています。そうすれば、難しいプロジェクトであっても実現できる可能性が高まります。
糖尿病治療に用いられるペン型注入器用注射針の開発では、0.2ミリという世界一細いインスリン用注射針「ナノパスシリーズ」の開発に成功しました。
この注射針を開発するきっかけとなったのは、糖尿病の子どもの患者さんに“注射の針が痛い”と言われたことです。
糖尿病でインスリンの自己注射を行う患者さんの中には、1日に何度も注射をしなければならない人もいます。インスリン注射を止めることはできなくても、その痛みを少しでも和らげることに貢献できると考え、従来の注射針よりも約20%細い注射針を約5年かけて開発しました。
──ナノパスシリーズの開発において、どんな技術がブレイクスルーにつながったのですか。
大谷内氏:丸棒や円管状の線材やパイプ材を任意の径に絞る「スウェージング」という加工技術です。技術者の直感としては、サイズの違いこそあれ、素材としての金属は伸び縮みするし、加工は可能ではないかという思いがありました。ただ、とてつもなく難しいだろうなと思っていたところ、ガスコンロのセンサーのような、6ミリぐらいの細い形状に加工するのに「丸める」技術があることを知り、そこから議論と試作を重ねたところ、うまく針の形状に“丸める”ことができました。
ぶれないための「2つ」の視点とは
──製品開発では困難を避けて通れないと思いますが、ぶれないために重要なことは何だとお考えでしょうか。ナノパスシリーズの場合、開発の中で1型糖尿病の子どもに話を聞きました。その際印象に残ったのは、「病気で朝から気分がすぐれない」「ご飯は食べたいけれどその前に痛い注射をしないといけない」と朝から暗い表情をしていることでした。彼らはそうした闘病生活を一生送らなければならないのです。これを理解したとき彼らのために「絶対に何とかしないといけない」という思いを抱きました。 【次ページ】「当たり前」を考えることが重要なワケ
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