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- 2025/04/10 掲載
国が推進「AI・半導体産業基盤強化フレーム」を解説、経済効果「160兆円」を目指すワケ
「AI・半導体産業基盤強化フレーム」策定の背景
半導体は現代社会における基盤技術であり、その重要性は年々高まっている。スマートフォンや家電製品、自動車、医療機器、さらにはデータセンターや生成AIに至るまで、あらゆる分野で不可欠な役割を果たしているのだ。中でも生成AIの普及が進む中で、膨大なデータを処理するための高性能で低消費電力の半導体が必要とされている。世界の半導体市場規模は2022年に約53兆円とされ、2030年には100兆円を超えるという予測もある。このような需要の急増に対応するため、主要国は半導体産業を国家戦略の柱と位置づけ、積極的な投資を進めている。
米国では国内の半導体産業を強化するための政策「CHIPS法」に基づき527億ドルを支援し、EUも「欧州半導体法」を通じて450億ユーロ以上を投資をしている。これらの各国の政策的な支援により、主要国間の競争は一段と激化している。
日本はかつて、半導体分野で世界をリードする地位にあったが、現在では先端ロジック半導体の製造技術で台湾のTSMCなどが市場を大きくリードしており、日本は他国に後れを取っている。
国内では40nm(ナノメートル)以下の半導体を製造できる事業者が存在せず、その結果、地政学的リスクや供給網の混乱が生じた際には経済への影響が大きい。また、主要国が巨額の支援策を打ち出す中で、日本が同様の対応を取らなければ、国際競争においてさらに不利な立場に追い込まれる懸念が高まっている。
「AI・半導体産業基盤強化フレーム」とは?
こういった状況の中、政府では「AI・半導体産業基盤強化フレーム」を策定。「AI・半導体産業基盤強化フレーム」は、2030年度までに官民協調で50兆円を超える国内投資を誘発し、半導体生産などに伴う約160兆円の経済波及効果の実現を目指す。本フレームでは、政府が補助金や委託費として6兆円、出資や債務保証を通じた金融支援として4兆円以上を投入することで、総額10兆円以上の公的支援を行う。この支援を通じて、国内産業の競争力を高め、サプライチェーンの強靭化を図る方針だ。
また、支援対象としては、世界市場で競争可能な戦略を有すること、経済安全保障上重要な物資や技術であること、そして民間企業単独では十分に投資が行えない分野であることが条件とされている。これらの条件を満たすプロジェクトについては、第三者の外部有識者による評価や進捗確認を通じて適切な支援が継続される仕組みを整備する。
フレームの実現に必要な財源は、財政投融資特別会計からエネルギー対策特別会計への繰り入れを通じて約2兆2,000億円を確保。そして、商工組合中央金庫の株式売却収入や既存基金の執行残額を活用して1.6兆円程度を追加で確保する。さらに、GX経済移行債の活用などにより、さらに2.2兆円の資金を確保する。これらの財源を活用し、フレームの長期的な実行可能性を支える。
令和6年度補正予算では、「次世代半導体の国内研究開発等」「先端半導体の国内生産拠点の確保」「従来型半導体等のサプライチェーン強靱化支援」を実施するため、必要な財源を確保しながら、令和6年度補正予算において、1兆6,000億円を確保する。
「次世代半導体の研究開発」では、先端半導体等の設計・製造技術や、ロボティクス分野の生成AIに関する基盤モデルなどの開発、実証に取り組む。
「先端半導体の国内生産拠点の確保」では、産業基盤の強靱化や戦略的自律性・不可欠性の向上の観点から、先端半導体の国内生産拠点整備を支援し、事業者による投資判断を促すことで、安定供給の確保などを目指す。
2025年(令和7年)度当初予算では、半導体サプライチェーン強靭化に向けて、国内生産拠点の整備や研究開発の支援などに3,328億円を盛り込んだ。ラピダスには次世代半導体の量産などに向けた出資事業として1,000億円を計上。出資が実現すれば、国がラピダスの実質的な株主となる。
ラピダスは、今年度5,900億円の追加支援を決定し、これまでの予算額と合わせると合計最大9,200億円の支援規模にもなる。
【次ページ】経済波及効果は160兆円以上を目指せる理由
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