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- 2025/03/05 掲載
半導体産業の「深刻な人材不足」を解決、半導体製造老舗「Dextro」の挑戦

人材不足とAI投資の加速、半導体産業の現状
半導体産業ではいま、深刻な人材不足と急速なAI投資加速という2つのトピックが大きな関心事になっている。デロイトの調査によれば、2021年時点で全世界の半導体産業従事者は約200万人に達するものの、2030年までにさらに100万人以上の熟練労働者が必要になるという。年間10万人以上の人材確保が必要になる計算だ。
人材不足はいくつかの要因によって引き起こされているが、最近では地政学的要因の影響が大きくなっている。アジアに集中していた半導体製造拠点の分散化が進められており、現在約20%の生産シェアを持つ欧米が、2030年までに50%のシェアを目指す計画を掲げているためだ。製造拠点の分散化は、半導体サプライチェーンの強靭化には寄与するものの、必然的に労働効率の低下をもたらす。これまで高度に集中していた生産体制が分散することで、より多くの人材が必要となるのだ。
一方で、AI技術の顕著な進化により、製造業におけるAI活用は急速に広がりを見せている。ユニバーサルロボットが北米と欧州の製造業、約1200社を対象に実施した調査(2024年11月発表)では、50%以上の企業がすでにAIと機械学習を生産現場で活用しており、さらに48%の企業が2025年までにAIと機械学習への投資を計画していることが明らかになった。

背景には、製品品質の向上、生産性の向上、精度の向上といった具体的な効果への期待がある。実際、調査回答企業の50%以上がこれらを新技術導入の主な理由として挙げている。また30%の企業が労働環境の改善を、26%の企業が持続可能性目標の達成を目的としている点も注目に値する。
さらに、製造業におけるデジタル化も着実に進展している。調査対象企業の47%が、IoT、クラウドコンピューティング、デジタルツインなどのデジタル技術をすでに導入。これらの技術は、シミュレーションや予測メンテナンス(予防保全)を通じて、稼働停止時間の削減やコスト削減を実現している。また、市場需要に応じて柔軟に対応する多品種生産モデルへの移行も可能にしているという。
半導体産業はAI技術の積極的な活用によって人材不足を補いつつ、生産性向上を図る方向に向かっている。この流れを象徴する具体的な事例として、半導体製造装置の老舗企業が開発した最新のコラボレーションロボットを紹介したい。
半導体製造装置の老舗、コボット導入で保守作業の効率化に挑む
半導体製造装置メーカーのLam Researchは、2024年12月、半導体業界初となるコラボレーションロボット(コボット)「Dextro」を発表、世界の複数の先端ウェハー製造工場での導入を開始した。現代のウェハー製造装置は、ナノスケールでの半導体製造を実現するため、高度な物理学、ロボット工学、化学を駆使した複雑なシステムとなっている。典型的な製造工場には数百の装置が存在し、それぞれが定期的な保守作業を必要とする。
Dextroは、この保守作業を最適化するために設計されており、装置の稼働停止時間と生産のばらつきを最小限に抑える高精度なメンテナンスを実行する能力を持つ。
たとえば、消耗部品の取り付けでは手作業の2倍以上の精度を実現。また、真空シール用ボルトの締め付けでは、手作業で5%のエラー率があった作業を正確に行うことが可能だ。
さらに、チャンバー内の側壁ポリマー堆積物の除去作業も可能で、これにより下部チャンバーの分解作業を省略できる上、作業員が重い呼吸保護具を装着して行う必要のある危険な手作業も回避できるようになる。
市場調査会社TECHnalysis Researchのボブ・オドネル社長は発表声明で、AIがもたらす半導体需要の急増に対応するには、製造装置の効率を最大限に高め、ダウンタイムを最小限に抑える必要があると指摘。Dextroを活用し、面倒で時間のかかる複雑な清掃・保守作業を自動化することで、製造効率を最大化できると評価している。
Lam Researchのクリストファー・カーター氏(カスタマーサポートビジネスグループ担当副社長)は、製造工場がより大規模化し、地理的多様性と装置の複雑さが増す中、チップメーカーは自動化の促進と効率性の向上によって、製造エンジニアの生産性を最適化する必要があると強調。世界的に半導体関連の求人が熟練エンジニアの供給を上回る状況下、ますます重要になっていると指摘している。 【次ページ】モバイルカート型コボット、100台の製造装置を1台でカバー
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