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- 2025/01/07 掲載
MEMS(メムス)とは何か簡単に解説、マイクなど「1人100個超」使用している身近な技術
MEMSとは何か、半導体との違いは?
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電子機械システム)とは、数ミリメートル角程度のシリコンウェハー、ガラスウェハー、有機フィルムなどの上に、数マイクロメートルサイズのセンサー、(機械的に動く)アクチュエーター、電子回路などを、微細加工によって作りこんだデバイスである。MEMSの製造には、半導体集積回路の製作技術などが活用されるが、従来の回路のような平面的な積層構造とは違い、ある部分が基板から分離しているような立体構造を備えている。この立体的で可動部を有している構造は、一般の半導体素子と異なる点である。
たとえばスマートフォンでは、特定の電波を選択するためのBAWフィルター、加速度センサー、ジャイロセンサー、マイクロフォン、気圧センサーなどの複数のMEMSが利用されている(後ほど解説します)。
MEMSはさまざまな製品の中で使われているが、特に自動車やスマートフォンでの利用が代表的だ(図1)。
MEMSは、圧力・磁気・静電・熱といった物理現象を電気信号に変換するセンサー機能と、逆に電気信号を与えることによって可動構造体を動かすアクチュエーター機能の双方を実現でき、応用範囲が広い。
スマートフォンと自動車のほかにも、たとえば、インクジェットプリンタのプリンタヘッド、プロジェクターや光造形式3Dプリンタや半導体露光機に使われるデジタルミラーデバイス(DMD)、DNAチップ、光通信用光スイッチ、レーザープロジェクター等に使用されるガルバノメーターなど、さまざまな製品に採用されている。
MEMSが「小さいほど良い」理由
基本的にMEMSは同じ性能なら小さいほど良いとされる(製品として高い競争力を持つ)。まず、スマートフォンのように複数のMEMSを搭載する場合、小さいMEMSほど、搭載製品の薄型化・小型化を実現できるなど、設計の自由度が広がる。また、小さいほどコストメリットも得られる。たとえば1ミリメートル角のMEMSは、3ミリメートル角のMEMSに対し、約10倍のコストメリットがある。
これは、基板となる8インチ(200ミリメートル)の円形シリコンウェハーの場合、その上に製造できるMEMSの数には1ミリメートル角と3ミリメートル角とで、それぞれ約3万個、約3千個と約10倍の差が出るからである。MEMS小型化によるウェハー1枚あたりの製造コストは大幅に変わることはないため、MEMSは小型化するほどコストメリットが出る。
MEMSの歴史
MEMSの起源は、20世紀半ばにさかのぼる。最初に開発されたMEMSについては、議論が分かれており、1951年の米エレクトロニクス企業RCA社(※現在はゼネラルエレクトリック社に買収された)が最初とする説、1963年にトヨタ自動車グループの豊田中央研究所が開発した圧力センサーを推す説、1967年にウェスティングハウス・エレクトリックのハーベイ・C・ナサンソンらが開発した共振ゲートトランジスター(一種のフィルター)が最初のMEMSであるという説がある。当初、MEMSが多く採用されたのは自動車であった。1980年代には、排出ガスの浄化装置の一部にMEMS圧力センサーが採用された。1990年代になると、MEMS加速度センサーが自動車の衝突を検知し、エアバッグを作動させるセンサーとして採用されている。さらに、自動車の横転・スピン防止のためのセンサーとしてMEMSジャイロセンサーも採用された。
さらにMEMSは、スマートフォンの普及をきっかけに爆発的に市場を拡大させた。前述の通りである。スマートフォンだけでなく、ワイヤレスイヤホンやスマートウォッチ、AIスピーカーなどMEMSを複数搭載している関連機器を考えると、1人が日常的に利用しているMEMSの数は、100個以上に及ぶ可能性がある。
MEMSが普及した「2つの理由」
MEMSがここまで普及した理由を、MEMS研究の第一人者である東北大学 田中 秀治教授は「アフォーダブル」と「壊れないこと」という視点から説明する。「アフォーダブル」(affordable)とは、「利用できる/入手可能な」といった意味だ。たとえば、自動車の自動運転においてレーザーセンサーLiDAR(ライダー)は不可欠だが、初期のLiDARは機械式で、その価格は数百万円だった。この機械式LiDARに替わるものとして、MEMS光スキャナーを採用した比較的低価格なMEMS LiDARが登場し、既に中国のEVに数十万台も採用されている。
また、スマートフォンに採用されているジャイロセンサーや加速度センサーにしても、MEMS以外の技術で製作され、かつ性能にも優れたセンサーは存在する。だが、いずれも高価である。「アフォーダブルであること」、つまり手頃な価格で調達できるかどうかという観点で、MEMSに勝るものはない。
MEMSは、さまざまな用途のセンサーやアクチュエーターを生み出せる上、先に述べたとおり、小さくすればするほど、コストメリットが出る。まさに、高い性能とアフォーダブルであることを両立しているのだ。
もう1点、田中教授が指摘した「壊れないこと」がある。多くのMEMSは、半導体製造でも用いられるシリコンを基礎材料としている。用途に応じ、ガラス基板や有機材料などを材料としているものもあるが、多くのMEMSがシリコン製だ。シリコンは、経年劣化が少なく、繰り返し動かしても耐久性に優れている。
一方、私たちの生活の中ではポピュラーな素材である金属は比較的加工も容易だが、実は使い方によっては耐久性に乏しい。
たとえば振動ジャイロセンサーでは、素子と呼ばれるコア部分を常に振動させ続けることで、センサーが受けるコリオリ力(回転体の上で動いたときに生じる見かけの力)を検出する。素子を金属製にすると、金属疲労を起こし変形、もしくは破断を起こす。だがシリコンであれば、経年劣化は極めて少なく、長期間稼働させ続けても壊れにくいし、品質も変わらないのだ。
MEMSの市場規模とメーカーランキング
フランスの市場調査会社Yoleグループによれば、MEMSの市場規模は、2022年に150億米ドルになり、2030年には200億米ドルに拡大すると予測され、年平均成長率は5%と見込まれている。Yoleグループのアナリストは、これまでMEMS市場を拡大してきたスマートフォン需要に加えて、ワイヤレスイヤホンやOTS(Over The Counter、処方箋無しですぐに買える)補聴器といった新たなウェアラブル端末、ADAS(Advanced Driver Assistance System、先進ドライバー支援システム)などの普及がMEMS市場の拡大に貢献すると分析している。
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