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  • 2024/05/23 掲載

次世代パワー半導体とは?SiCとGaNが台頭、高耐電圧・低損失の理由も解説

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次世代パワー半導体とは、一般的なSi(シリコン)のパワー半導体よりも高耐電圧・低損失な、SiCやGaNなどの新素材から作られるパワー半導体だ。急速なデジタル化が進む中でさらなる技術革新が求められていることや、省エネルギー化に貢献が可能なことなどから注目を集めている。SiCやGaN以外の新素材、Ga2O3やCなどが台頭してくる可能性もある。次世代パワー半導体の市場動向は、どのように推移していくのか。本記事では、次世代パワー半導体が高耐電圧・低損失である理由、一般的なパワー半導体との違いの他、日本企業の開発動向について解説する。
執筆:Seizo Trend編集部 監修:EYストラテジー・アンド・コンサルティング 岡部裕之

執筆:Seizo Trend編集部 監修:EYストラテジー・アンド・コンサルティング 岡部裕之

監修者プロフィール
EYストラテジー・アンド・コンサルティング TMT インテリジェンス ユニット シニアマネージャー 岡部裕之
大手電機メーカー、大手総合コンサルティングファームを経て現職。テクノロジー、メディア・エンターテインメント、テレコム(TMT)領域において、リサーチの専門組織であるインテリジェンス ユニットのリーダーを務める。

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SiC(炭化ケイ素)などの新素材を使って作られる「次世代のパワー半導体」とは?
(Photo/Shutterstock.com)

次世代パワー半導体とは

 次世代パワー半導体とは、一般的なパワー半導体よりも電気を通しやすく電力の損失が少ない新素材を用いたパワー半導体を指す。

 次世代パワー半導体に用いられる新素材としては、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)などが代表的だ。次世代パワー半導体省エネ性に優れていることも特徴であり、今後需要が伸び続けていくことが予測される。

そもそもパワー半導体とは

 そもそもパワー半導体とは、高電圧や大電流の制御・変換を行うデバイスであり、一般的に定格電流が1A(アンペア)以上の半導体を指す。名前に「パワー」が付くため、巨大な電力・電流を生み出すための特殊な装置と捉えがちだが、実際は電圧や周波数、直流・交流の電力変換などを行う装置なのだ。

生成AIで1分にまとめた動画
 身近な製品を例に挙げると、家庭用電化製品などにも組み込まれており、コンセントに届けられた電流を電化製品が動作するために必要な電圧に変換するなどの役割を担っている。

 半導体の中でも、よく耳にする「ロジック半導体」との違いもおさらいしておきたい。ロジック半導体とパワー半導体の違いは、その役割にある。CPUやLSIに代表されるロジック半導体が、演算や記憶を担うことから「頭脳」の役割に例えられることが多い。それに対し、大小を問わず電力を供給することから「筋肉」の役割に例えられるのが、パワー半導体だ。

 現状、性能が限界に達しつつある点がパワー半導体の課題だ。「最終製品の小型化」「高電圧・高速スイッチング」といった、昨今の状況の変化やニーズへの対応が困難であるとされている(出典:経済産業省資料「参考資料(半導体)」)。

次世代パワー半導体とパワー半導体の違い

 次世代パワー半導体とパワー半導体の違いは、大きく分けて下記のポイントなどが挙げられる。

■パワー半導体と比べて何が違う? 次世代パワー半導体の特徴
  • バンドギャップが大きく、強い電圧に耐えられる
  • スイッチング損失が小さい

 次世代パワー半導体は、Si(シリコン)を用いた一般的なパワー半導体よりもバンドギャップが大きく、強い電圧に耐えられるのが特徴だ。

 バンドギャップとは、電子が存在できるエネルギーの範囲である「エネルギーバンド」の間に存在するエネルギーの「ギャップ」、つまり電子が存在できないエネルギーの範囲を指す。バンドギャップが大きいと、高温や強い光が当たらないと電流が流れない。つまり、レバーが硬く、押し下げるのに力が必要な状態に似ている。そのため、バンドギャップが大きいと、高い電圧での使用に耐えられる、安全性の高い半導体を作ることが可能だ。

 さらに、次世代パワー半導体は一般的なパワー半導体に比べてスイッチング損失が小さい。「スイッチング損失が少ない」とは、半導体が電流のオンオフを切り替える際に、エネルギーの無駄が少ないことを指す。たとえるなら、自動車に乗る際に小さな力でペダルを漕いでもスムーズに進む状態に似ている。結果的にエネルギー効率が高くなり、燃費の向上や充電の高速化を実現するのだ。

次世代パワー半導体が注目される理由

 次世代パワー半導体が注目される背景として、IoTデバイスの増加やAI技術の発展など、急速なデジタル化が進行していることが挙げられる。パワー半導体は、IoTデバイスやAI技術、自動運転などの基幹部品とも言える役割を担っており、これらの性能を向上させるためには、パワー半導体のさらなる高性能化が欠かせない。

 また、電力の損失が少ないため省エネルギー化に貢献が可能なことに加え、省エネルギー化の工夫の余地が大きく残されている技術分野と考えられていることも、注目される理由だ。

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今後需要が伸び続けていくことが予測される次世代パワー半導体
(Photo/Shutterstock.com)

次世代パワー半導体の種類・特徴

 次世代パワー半導体には、どのような種類があるのだろうか。それぞれの特徴を解説する。

■SiCパワー半導体
 SiC(炭化ケイ素)は、Siよりも約3倍大きなバンドギャップを持つ、高耐電圧・高信頼性を特徴とする半導体の材料だ。Siの半分を炭素に置き換えた化合物であり、炭素とシリコンが強固に結合することで、単結晶のシリコンよりも安定した結晶構造となっている。Siの約10倍も絶縁破壊強度が高く活性層を薄くすることが可能なため、一般的なシリコンデバイスよりも高耐電圧かつ低損失であることが特徴だ。

 絶縁体破壊強度とは、電気を通さない絶縁体が電気を通すようになるまでに耐えられる電圧の強さを指す。絶縁体破壊強度が高いと大きな電圧が加えられても電気を通さず、絶縁体を保つことが可能であり、電気機器の安全性を向上させる。

 SiCパワー半導体はその特徴を生かし、太陽光発電、HEMS(家庭内電力の使用を効率化させるエネルギー管理システム)、電気自動車などの中容量から大容量の機器に用いられている。

 次世代パワー半導体において、1000V以上の高耐電圧が求められる市場で先行して普及したのがSiCパワー半導体だ。

 2001年にドイツのInfineon Technologiesが、SiCベースのダイオードの一種である「ショットキー・バリア・ダイオード」を商品化した。その後、2010年にロームがSiCベースのトランジスタの一種であるMOSFETを商品化。EVのモーター駆動用回路や太陽光発電用パワーコンディショナなどで、Siベースのパワー半導体の代替デバイスとしての活用が広がっている。
■GaNパワー半導体
 GaN(窒化ガリウム)は、SiCと同様にSiの約3倍のバンドギャップを持つ、10倍以上高い絶縁破壊電界強度がある半導体の材料だ。オン状態の損失が少なく、高速スイッチングが可能な点が特徴的だ。

 SiCに次いで開発が進んでおり、ACアダプターやデータサーバーの電源などの小型機器に用いられる傾向にある。SiCと比較してコスト高のため、SiCのように大電圧・大電流を流す用途には向いていない。

 現状の市場は小さいものの、小型要求が高い分野での応用が拡大しつつある。また、今後は、莫大な電力消費が問題視されているデータセンターでの、サーバー用電源としての活用の広がりが期待されている。
■Ga2O3パワー半導体
 Ga2O3(酸化ガリウム)は、SiCやGaNよりも低いオン抵抗、高耐電圧が特徴だ。さらに安価であるため、実用化された場合は、SiCやGaNを凌ぐ需要の高い次世代パワー半導体が実現する可能性が高い。

 半導体物質の性能を表す「バリガ性能指数」の性能値では、Siを「1」とした場合にSiCは「500」、GaNは「930」であるのに対し、Ga2O3は「3444」という高い数値を誇る(出典:酸化ガリウム(Ga2O3)はパワー半導体の有望株!?実用化に向けた最新開発動向を解説.ネプコジャパン.2023年12月12日)。

 Ga2O3の高耐電圧・省エネで高効率の性質から、高電圧・大電流の電力を扱う通信機器や高速データ処理装置などの応用分野での活用が期待される。開発段階だが、日本のさまざまな企業や大学、研究機関が連携し開発が進められており、さらに研究開発に乗り出す日本企業も増加している期待の素材だ。
■C半導体
 C(ダイヤモンド)半導体は、炭素を含むメタンガスと水素ガスが原料の「合成ダイヤモンド」で作られる半導体のことだ。SiCやGaNを凌駕する耐久性や省エネ性を持つため、「究極のパワー半導体」と呼ばれる。

 2023年4月に佐賀大学が世界に先駆けてダイヤモンド半導体パワー回路を開発するなど、研究が進められているものの、実用化には時間がかかるというのが現状の見立てだ。本格的に実用化された暁には、量子コンピュータや宇宙分野、電気自動車など分野での普及が予測される。

 次世代パワー半導体として台頭しているのは、SiCとGaNだ。特にSiCは、高耐電圧が求められる市場で先行して普及した。両者は異なる用途で棲み分けをしているが、相対的にバリガ性能指数が高く、パワー半導体としての潜在能力を秘めたGaNがSiCに代わって主力の素材となる可能性もある。

 実際、SiCの普及が進む高耐電圧領域に向けた、より高性能なGaNデバイスを開発する動きも見られる。ただし、すでに構築されたサプライチェーンや応用技術を、GaNと置き換えるために刷新するのは簡単ではない。そのため、性能面ではGaNが上回っていたとしても、現状の棲み分けが継続することもある。

 また、バリガ指数がさらに高いGa2O3やCが台頭してくる未来も、十分に想定できる。そのほか、GaN向け技術改良で対応できるため技術的なハードルが低く、GaNを上回る潜在能力を持つAIN(窒化アルミニウム)の技術開発も進んでおり、パワー半導体の開発における覇権争いは今後も続く見込みだ。

次世代パワー半導体、期待される活用用途9選

 ここでは、SiCとGaNの活用が期待される用途について確認したい。

■データセンター
 小型のサーバー電源に適しているのは、SiCショットキーダイオードやGaN HEMTだ。一方、大規模データセンターでは、交流と直流の変換回数を減らすことで配電効率を向上できる。高圧直流給電の採用が増えており、有効とされるのは高圧・高効率のSiC素子だ。
■再生可能エネルギー
 再生可能エネルギーの分野でも、高効率の次世代半導体パワーの需要が高まっている。特に、高圧、大電力対応可能で高効率なSiCデバイスが適している。
■産業機器
 産業機器で使用されるインバーターとは、電流を任意の周波数や電圧に変える装置のことである。材料としてSiが用いられていたが、次世代素材として注目されているのがSiCだ。SiCパワー半導体をインバーターに使用することで、高速スイッチング制御と高効率な電力変換が実現する。
■HEMS
 HEMSは、家庭で使うエネルギーを節約するための管理システムを指す。分散電源システムの検討が進み、戸建てや集合住宅を対象とした電力マネジメントの導入が予定されている。HEMSの分野でも、高効率かつ小型な電源へのSiCデバイスの活用が見込まれる。
■AV機器
 AV機器のうち、高精細テレビに求められるのは、数100Wクラスの高効率な電源だ。高耐電圧・低損失のSiCショットキーダイオードやGaN HEMTの利用が適している。
■電気自動車(EV)
 電気自動車の電費向上には、車体の軽量化は必須だ。インバーター装置などに使用されるSiデバイスをSiCデバイスに置き換えることで、軽量かつ高効率なインバーター装置が実現し、1回の充電で走行できる距離が延長される。その他、電気自動車用の急速充電器や非接触給電にも、SiCデバイスが適している。
■LED照明
 LED照明は、蛍光灯などに比べて長く使える点が支持され、近年急速に普及した。さらなる高効率化を目指し、SiCショットキーダイオードやGaN HEMTの活用が検討されている。
■白物家電
 エアコンや冷蔵庫、洗濯機などの白物家電に使われているモーター駆動回路の効率をさらに向上させるため、低損失なSiCデバイスの利用が検討されている。しかし、その足かせになっているのは、SiC素子の価格が高さだ。普及を進めるためには、パワー半導体の低価格化が求められる。
■USB-PD
 USB-PDは、USBケーブルを使ってデバイスを充電するための給電規格を指す。USB-PDの電源は、急速充電ができることや、ノートパソコンやスマートフォンなどの各種機器に接続できるように複数の電圧供給ができること、持ち運びや埋め込みのために小型であることが必須とされる。

 これらの要件を満たし、効率を維持しながら高速スイッチングができる、GaN HEMTの活用が期待される。

次世代パワー半導体の市場規模

 SiCやGaNなどの次世代パワー半導体は実用段階に入っており、普及が広がりつつある。しかし、現状は大半のパワー半導体はSiから作られているという実態もある。次世代パワー半導体の市場動向は、どのように変化していくのだろうか。

 政府主催の「第7回DX実行会議」の資料を見ると、2022年の半導体の市場規模約83.1兆円のうち、パワー半導体は約3.8兆円(約4.5%)を占めている。

 このうち次世代パワー半導体の世界市場も拡大が続く見込みだ。経済産業省の「半導体・デジタル産業戦略 (改定案)」の資料によると、最も開発が進んでいるSiCは、2021年時点の約1,400億円の市場から、2030年には約24倍の約3.4兆円に達しているとの予測もある。

 今後、SiCやGaNなどの技術開発が進み低コスト化が実現すれば、2050年には次世代パワー半導体がSiから作られる半導体を上回ると考えられる。 【次ページ】世界シェアランキング、日本企業はどの位置?
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