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- 2016/01/19 掲載
インド大躍進の理由がわかる「マルチレベル・ネットワーク」とは何か 篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(70)
「ニュー・エコノミー」の波に乗ったインド
現在、グーグルやマイクロソフト、アドビといった大手IT企業のCEOはインド人だ。日本でも、昨年はインド出身のニケシュ氏が高額報酬でソフトバンク副社長就任し話題となった。
インドの一人当たりGDPは依然として低い水準だが、アジア3位の経済規模を誇り、成長率では今や中国を上回る勢いにある。20歳未満の人口割合が約4割(日本18%、中国26%、米国27%)を占めるなど、人口動態の面でも、今後の潜在力が注目されている。
20世紀半ばにイギリスの植民地から独立したインドは、その後、社会主義的な計画経済の道を歩み、近代的な工業化では遅れをとった。冷戦終結後の1991年には、旧社会主義圏との貿易減少などで経済危機に陥ったほどだ。
ところが、それを機に取り組んだ貿易自由化や規制緩和などの経済改革は、まさに世界が米国発のニュー・エコノミー(連載の第19回、第20回参照)に触発されて「情報の時代」に入るタイミングで実施され、インド経済はその波にうまく乗ることができた。その突破口は、この連載でたびたび言及しているオフショアリングだ(連載の第43回参照)。
歴史的な経緯で英語力や理数系の能力に秀でた人材が豊富なことから、米系企業のソフトウェア開発拠点として力をつけ、コンピュータ・プログラムの誤作動が懸念された1990年代末の「Y2K(西暦2000年)問題」ではインド系のIT人材が大活躍した。
ITで「雁行形態型」から「かえる跳び型」発展へ
元来、対面による役務提供の色合いが強いサービス活動は、地理的に離れた国際貿易は不向きであったが、ニュー・エコノミーの波に乗ったイノベーションがこれを可能にした。国際的に張り巡らせた高速通信網でデジタル情報をやり取りすることにより、今では製造業と同様、あるいはそれ以上に、国境を越えた取引が深化している。工業社会を念頭に置いた国際貿易論や経済発展論では、「雁行形態型(flying geese)」の発展、あるいは「キャッチアップ型」の工業化がよく知られている。経営史の大家Chandler(2000)は、「工業の時代」を経て「情報の時代」を迎えるという発展段階論を唱えたが(連載の第10回参照)、この考え方は、農業などの第一次産業から第二次産業の工業化を経て、サービス業などの第三次産業へ生産力が移行するというペティ=クラークの法則を受け継いだものだ。
ところが、オフショアリングが盛んなインドでは、今でも農業人口が約5割を占めており、工業化を飛び越して農業社会から一気に情報産業の発展が起きている。こうした「かえる跳び型(leapfrogging)」の発展は、情報化の進展とともに現れた比較的新しい現象であり、従来の枠組みではうまく捉えきれない面があるようだ。
人材がカギを握る時代のフレームワークは何か
たとえば、末廣(2000)は、キャッチアップ型工業化論がいくつかの前提のもとに成り立っており、その前提が崩れると、これに従わない経済発展型があり得ると指摘し、「情報技術の急テンポの革新」で「情報サービス産業の知識資源の分野では、『飛び越え』の可能性も十分ありえる」と論じている。さらに、経済のサービス化が進展する時代には、比較優位を決定づける重要な要因が人間そのものに移るとの議論も数多くなされている。第一次産業が中心の「農業の時代」は肥沃な土地が、第二次産業が中心の「工業の時代」は巨大な資本設備が、それぞれ富の源泉となったが、「情報の時代」は人材こそが富の源泉というわけだ(連載の第47回参照)。
もちろん、人材はお金やモノに比べると国境を越えた移動が容易ではない。しかし、固定資産である土地や資本設備に比べるとはるかに身軽で柔軟だ。それ故、情報の時代には人と人とのつながり具合、すなわち、人材交流を視野に入れた分析のフレームワークが欠かせない。その基礎となるのが経営学の領域で研究が盛んな「ネットワーク理論」だ。
オフショアリングとの関連では、「スモールワールド・ネットワーク」「リワイヤリング」「マルチレベル・ネットワーク」という3つの基本概念がカギとなる。
【次ページ】スモールワールド・ネットワークとリワイヤリング
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