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2021年もコロナ禍が続く1年となった。その中にあって、アフター・コロナを見据えたデジタル社会の胎動を感じる場面も多くみられた。そのひとつが電波政策を巡る新たな政策指針の策定だ。経済価値を有する希少資源の電波をどのように資源配分し、経済社会の活力を取り戻すのか。今回は年末特集号として、2020年末から9カ月にわたって議論された「デジタル変革時代の電波政策懇談会」の最終報告を手掛かりに、電波利用の将来像を考えてみよう。
デジタル変革時代の電波政策懇談会
ちょうど1年前の連載では、2020年11月に始まった「
デジタル変革時代の電波政策懇談会」(座長:早稲田大学 三友仁志教授)を取り上げ、日本経済の活性化に向けて何が重要か、インフォメーション・エコノミーの観点から考えた。
その際に筆者が示したポイントは、(1)経済価値を有する希少資源としての電波、(2)社会のモビリティ化に伴う電波価値の増大、(3)ローカル5Gを梃子にしたユーザーイノベーション、(4)高周波数帯の技術開発における国際貢献と人材ネットワークの形成、(5)情報通信市場における“2つのセキュリティ問題”の5つだ。
その後、会合でどのような議論が展開され、最終的にどう取りまとめられたか、詳細は総務省のHPに公開されているので、具体策は直接原典に当たるのが一番だ。今回は懇談会の一員として議論に加わった筆者の個人的見解と断った上で、9カ月間の議論を振り返ろう。
電波と経済価値と経済活性化のリンク
懇談会の最終報告で、筆者が重要と考えるのは次の3点だ。第1に、「電波」と「経済価値」と「経済活性化」が今後の電波政策で明確に結びつけられた点、第2に、これまで未整備だった「周波数の再割当」が電波政策の俎上に載った点、第3に、「新たな周波数帯の開発目標」と「国際連携」の方針が掲げられた点だ。
そもそも、この
懇談会が設置された目的は「経済と社会を活性化」するためであり、「新たな日常の確立や経済活動の維持・発展に必要な社会全体のデジタル変革」に向けて「有限希少な国民共有の資源である電波」を有効利用することにあった。
その意味では、まず電波を「経済価値を有する有限希少な資源」と位置付けた上で、経済社会の活力を取り戻し、成長促進に欠かせないとの認識を今後の政策基盤に据えた点で大きな意義がある。今後の電波政策で「経済学の知見」が活かしやすくなるからだ。
土地、資本、労働と並ぶ生産要素としての電波
経済学とは「人と人との社会的関係の中で、どのような資源配分がなされるか、その効率性を考える選択の科学」だ。周知のとおり、資源配分の効率性が損なわれると、社会は長期的に貧しくなってしまう。
このことは、温暖な南国の土地をリンゴ農家に割り当て、寒冷な北国の土地をミカン農家に割り当てるとどうなるかを考えるとわかりやすい。こうした社会では、それぞれの栽培に優れた農家がどんなに懸命に働いても、果実の収穫量は乏しく、人々は飢(ひもじ)い思いをするに違いない。
IoTやCASEが象徴するように、経済社会の
モビリティ化が進展する中にあって、移動の柔軟性を支える電波はその価値を一段と高めている。電波が経済価値を高める時代には、その最適資源配分が実現しないと経済の活性化は絵に描いた餅だ。
土地や資本設備や労働と同じように、今や電波も富を生み出す経済活動に欠かせない重要な生産要素となっている。電波利用の需要が増大する一方で、有限希少な電波は供給が不足しがちだ。生産要素の有効な利活用が制約されれば、経済活力は削がれてしまうだろう。
この制約を打破するには2つの方策が考えられる。1つは既に割り当てられた周波数の有効活用、もう1つは、新たな周波数の開拓とその有効活用だ。前者は、これまで未整備だった周波数の再割当問題につながり、後者は、これまで未開拓の高周波数帯域における研究開発の議論につながる。
【次ページ】制度の空白地帯を埋める周波数再割当の基本方針
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