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- 2021/08/26 掲載
なぜドコモ ahamoの「価格」がイノベーションなのか? “創造的破壊”と言えるワケ 篠﨑教授のインフォメーション・エコノミー(第137回)
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コロナ禍で次の展開に向けた気運の高まり
昨年は、コロナウィルス感染症(COVID-19)の急拡大で変容した社会の課題解決に貢献する製品やサービスが表彰された。18回目となる今年は、コロナ禍で弾みがついたデジタル化の「次の展開」を感じさせる多くの取り組みが目を引いた。
表彰されたのは、次世代インフラとして将来性が期待される「IOWN構想」、盗聴が不可能な通信技術を事業化した「量子暗号通信」、産業設備のデータ統合を実現するAIプラットフォーム「Cognite Data Fusion」など次の時代を見据えた16の取り組みだ。
COVID-19の猛威は、ワクチン接種が進んだ現在も、変異種の拡散によって収まる気配は見えないが、既にICTの領域では、危機を乗り越えた後に到来する本格的なデジタル社会に向けた気運が高まっているようだ。
他の消費を圧迫しない「価格設定」の意味とは?
その中で目を引いたのが、オンライン契約に特化した大胆な料金プランの「ahamo」や定額制が一般的だったパケット通信料に0円を含む柔軟な従量制プランを導入・実現させた「Rakuten UN-LIMIT VI」だ。前者は、今年の最高賞(MM総研大賞)に輝いた。両者に共通するのは、技術そのものの革新性というよりも、次の展開を切り拓く社会的インパクトという面で「価格設定」の新たな仕組みが高く評価された点だ。一体なぜだろうか?
周知のとおり、ICTは先進国のみならず途上国にも広く行き渡り、電気や水道が普及していない地域の人々も日常的に利用している。今や電気や水道を凌ぐ人類の社会インフラ=プラットフォームなのだ。それゆえ、その価格設定は単に「安くなった」という以上のインパクトがある。すなわち「他の消費を圧迫しない」という効果だ。
プラットフォームとしてのICTは、多くのユーザーによるさまざまな活動が活発になるほど存在意義と利用価値が高まる。逆にみると、ユーザーの他の消費活動を圧迫したのでは、プラットフォームとしての価値は高まらないのだ。
東南アジアで拡大する配車サービスのGrabやGO-JEKは、スマホのアプリと連動することで人々の日常生活に欠かせないプラットフォームへと進化した。中国の支付宝(アリペイ)やケニアのM-Pesaは、そのモバイル決済版だ。
いずれも、ユーザーが支払う通信料金だけの価値ではなく、様々な日常活動と連携することで、多様な価値を生み出す源泉となり、社会の活性化と人々の稼得機会拡大を通じた経済発展を引き出しているのだ。そうした効果の総和が巡り巡って自らの価値をさらに高めている。
通信費は他の消費支出を圧迫し続けた?
「カネは天下の回りモノ」とはよく言ったものだ。高い価格設定で通信料金の収入だけを最大化する戦略は、局所的には正しいようでも、ユーザーの他の消費支出を圧迫してしまえば、訪れるはずのビジネスチャンスを窒息させてしまう逆効果になりかねない。「二面市場」の性質を生かしたグーグル(Google)の戦略からも分かるように、ユーザーの他の消費支出を圧迫しない(場合によっては無料の)価格設定は、一面では身を削りつつ、別の面では、巡り巡って自らの価値を高めるネットワーク効果が期待できる。プラットフォームとは、元来そのような性質を擁しているのだ。
この点で、日本の通信費は、これまでユーザーの他の消費支出を圧迫する力学が働いていたようだ。総務省統計局の「家計調査(二人以上の世帯)」によると、世帯当たり1カ月間の通信費は、2000年の9,521円から2020年の1万3,479円へと20年間で41.6%も増加している。
この間の日本経済は停滞を続け、消費支出の総額は12.4%減少している。その結果、消費支出に占める通信費の割合は、2000年の3.0%から2020年の4.8%へ1.8%ポイントも上昇しているのだ。家計で重要な住居費との相対関係をみても、その差(住居費-通信費)は、かつての1万1,001円から3,886円に縮小しており、今や通信費の負担は住居費並に近づいた。
【次ページ】ahamoの「価格設定」はなぜイノベーションなのか
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