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  • 2015/08/14 掲載

ギリシャと中国の問題が照らし出す「不安の経済」と「怒りの経済」とは何か 篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(65)

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情報化のグローバル化が進展する過程で、先進国、新興国、途上国の経済は、相互のつながりを一段と強めるようになった。前回取り上げた人口問題がそうであるように、そこに現れたのはフラットではなく多様な世界だ。先進国経済の成熟化、新興国経済の追い上げ、途上国経済のテイクオフといった現象は、人々の意識と行動に大きく影響し、「不安の経済」と「怒りの経済」を生んでいる。ギリシャの債務危機を巡るユーロ圏の混乱や上海株式市場の乱高下に揺れる中国経済のバブル的現象もこの文脈で読み解くことができそうだ。
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ギリシャの一人当たりGDPは2万1,722ドルなのに対し、
中国の一人当たりGDPは6,626ドルに過ぎない

先進国のギリシァと新興国の中国:洋の東西を代表する文明史

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 前回みたように、21世紀の世界は、かつて人類が経験したことのない技術普及によって、新興国のみならず途上国をも巻き込んだ経済成長の「可能性」が訪れている。だが、この「可能性」を「実現」するための道のりは、必ずしも平坦ではなさそうだ。

 それを象徴するのが、ギリシャを巡るユーロ圏の混乱や上海株式市場の乱高下に揺れる中国経済の動向だろう。ギリシャと中国といえば、西洋と東洋を代表する歴史的文明の中心地だが、今日では両国の所得水準に大きな開きが生じている。

 ユーロ経済圏に属し、OECD加盟国でもあるギリシャの一人当たりGDPは2万1,722ドル(2013年、以下同じ)で、先進国グループの中では韓国(2万6,482ドル)や台湾(2万1,072ドル)と同水準の豊かさだ(ちなみに、日本は3万8,644ドル、ドイツは4万5,091ドル、米国は5万2,392ドル、スイスは84,854ドル)。

 一方、著しい経済成長を続ける中国は、経済規模こそ米国の17兆ドルに次ぐ世界第二位の9兆ドルを誇っているが(ちなみに、日本は5兆ドルで世界第三位)、一人当たりGDPでみると、6,626ドルに過ぎず、ギリシャとの間に3.2倍の格差が存在する。

 したがって、両国の問題を同列に扱うことはできないだろう。だが、立ち位置が異なる両国の動向に世界中の市場関係者が固唾をのんで注目しているのは、一方で、ギリシャの債務問題がユーロという統一通貨圏の綻びにつながりかねず、他方で、上海株式市場の乱高下による中国経済のバブル崩壊が、世界的なショックの引き金になりかねないとの懸念を生んでいるからに他ならない。

 21世紀の今日、洋の東西で起きているこの2つの現象は、どのような枠組みで包括的に読み解くことができるだろか。そのヒントとなるのが、西洋から東洋へ産業革命の波が押し寄せた19世紀後半に、極東の地日本でみられた「不安の経済」とその背中合わせにある「怒りの経済」だ。

江戸末期の財政危機と外圧が生んだ「不安の経済」

 日本史が専門のデービッド・ハウエル・ハーバード大学教授は、江戸時代後期の日本を「Economy of Fear」という観点で考察している。「不安の経済」という枠組みだ。当時の日本は、アヘン戦争による隣国(清国)の混乱や黒船来航など、東アジアに迫りくる「対外的脅威」に直面する一方で、国内的には天災や飢饉による社会の混乱に見舞われていた。

 ところが、各地域の統治者である藩も、その元締めである幕府も「財政赤字」に苦しんでおり、これらの「内憂外患」に有効な手を打つための「経済力」を失っていた。こうした政治情勢と経済環境によって、社会全体が不安(Fear)に覆われていたというわけだ。

 「対外的脅威」と「財政事情の悪化」で、天下泰平の時代が転機を迎えた19世紀後半の日本の様子は、現代の日本社会が、国際情勢の激変と膨大に積み上がる財政赤字の中で「失われた20年」を経験してきた閉塞状況に重なる。

 実はこのような閉塞感は、現代の日本のみならず、米国など他の先進国に共通する現象のようだ。

 筆者の招きで2014年6月に「九州大学経済学部90周年記念シンポジウム」のため来日したハウエル教授は、基調講演の中で、江戸末期を彷彿とさせる「不安の経済」は、日本だけでなく、21世紀のアメリカにも共通する現象だと問題提起している(九州大学経済学府・学部[2015]参照)。

【次ページ】先進国の「不安の経済」と新興国や途上国の「怒りの経済」
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