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- 2009/10/16 掲載
加速するか食品業界再編、今後5年で業界再編が必要と考える経営者は5割--野村総合研究所調査
野村総合研究所(以下、NRI)は、2009年7月3日から7月17日にかけて、売上高30億円以上の酒類・飲料・加工食品メーカー1,564社の経営者を対象に、「国内食品業界における中長期的な展望に関する意識調査」を実施した。有効回答137件を分析した結果、中期的に(今後5年間程度)で「食品業界の再編が必要」と感じている経営者は5割を超え、「必要ない」との回答は16.0%にとどまった。また、業界再編を加速させる要因として、「食品業界上位の企業によるM&Aの活発化」および「経済環境の悪化」を挙げる経営者が多いことがわかった。
──NRIの調査では、食品業に携わる経営者の多くが「今後、食品業界は大きく変化する」と予測している結果が出ました。その背景にはどのような要因があるとお考えですか?
小沼 まず、指摘できる要因として、日本経済の成長の鈍化が挙げられます。IMFなどの調査によると、日本の名目GDPは2008年以降、ほぼ横ばいで推移する見込みです。それに加えて、少子高齢化がますます進み、国内食品市場の需要の減退から、国内市場での競争はいっそう激しくなると予想されます。また、国内の外食と中食の市場規模が、2001年以降まったくの横ばいで推移しているという調査結果もあり、今後も市場は大きく伸びず、縮小均衡していくと予測されます。さらに、かつて伸びが高かった加工食品も、2004年以降は横ばいで、こちらも今後の伸びは期待できません。
──食品市場は原材料の分野である「川上」と、小売・流通の分野である「川下」に分かれますが、それぞれの状況はどうなっているのでしょうか?
小沼 トウモロコシ、小麦、大豆、乳製品などの原材料価格は、国際通貨基金の調査や農畜産物振興機構の需要関係の統計データから見て、近年どれをとっても乱高下しています。食品メーカーにとって原材料の価格変動リスクにどのように対応するか、また、原料をどのように安定調達するかが大きな課題です。
一方「川下」、つまり小売・流通業界では寡占化が進んでいます。日本では、セブン&アイ・ホールディングスやイオンなどの大手小売に大手商社が絡み、業界内でのバイイングパワーが増し、食品メーカーに対する値下げ圧力やPB(プライベートブランド)化への対応圧力につながっています。海外と比較すると日本の食品業界には小規模の企業が多く、また、業界全体としてもグローバル展開が遅れています。
──NRIの調査では「現在の自社の経営課題」として「安心・安全への対応」がトップに挙がっています。最近、消費者を欺き「安全・安心」について、信頼を裏切るような不祥事が発生し、消費者の意識が高まってことが影響しているのでしょうか?
小沼 食品企業の不祥事は2007年以降の主なものでも、不二家、ミートホープ、赤福、船場吉兆、JTフーズなどの事例があり、その結果、ミートホープや船場吉兆など、廃業や破産などに至ったケースもあります。また、行政側もこうした事態を受けて、消費者庁を新設するところまで対応を迫られています。
──今回実施された意識調査ではM&Aについての関心が高まっていますが、これはどのような理由によるものでしょうか?
佐藤 「最も優先度の高い事業戦略」として、既存商品カテゴリーの強化と既存事業での競争優位の獲得を推進するにために「M&Aの活用を検討したい」と回答した経営者は32.5%存在しています。
また、今後、食品業界を加速させる要因として「国内食品業界の上位企業による業界内でのM&Aの活発化」と回答した経営者が27.0%と最も多くなりました。
調査の締め切り終了間際に、キリンホールディングスとサントリーホールディングスの経営統合が進められていることが報じられたものの、アンケートの回答への影響は限定的だったと想定されます。もしキリンとサントリーの経営統合の報道後にアンケートを実施していたら、M&Aの活発化と回答した経営者はさらに多かったのではないかと考えています。
つまり、キリンとサントリーの経営統合にかかわらず、国内食品企業各社は、自社の既存商品ラインを強化するため、また、新規カテゴリーへの進出による経営力の強化のため、M&Aをスピーディーな経営戦略として重視していたことが伺えます。
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