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米ネット小売大手のアマゾン・ドットコムが、鳴り物入りで育成に力を入れてきたプライベートブランド(PB)商品について、大幅な品目数の削減に着手した。背景には2点あり、1つはPB商品の売上だ。そしてもう1点は、アマゾンを取り巻く政治が大きく関係している。またこうした品目数削減というリストラを経て、アマゾンはPBから「完全に撤退する」との噂が飛び交っている。一方で、8月5日にロボット掃除機ルンバのアイロボットの買収を発表した。では実際のところ、今後のPB戦略についてどう考えているのか。今回はアマゾンのPB戦略について、品目数削減の具体的な背景と併せて考察していく。
ジェフ・ベゾスが激怒? 「PB戦略」の変遷を見る
小売業者にとり、サードパーティー製品を販売するよりも自社商品を販売した方が、コストのコントロールや競合より安い値付けを実現でき、利潤が高くなることは常識だ。
アマゾンが乾電池やUSB充電コード、おむつやトイレットペーパーなど、生活シーンで利用する基礎的な商品でPB分野に参入したのは、2009年のことであった。これらのベーシックな商品で成功を収めたアマゾンは、自社ECサイトで得たサードパーティー(出店者)の販売データを基に類似PB商品をさらに開発。ヨガマットやスナック、ビタミンサプリ、日常用の下着など、消費者がブランドにさほどこだわらないと思われる分野への参入を強化した。
そして2016年にウィメンズ・アパレルPBの「ラーク&ロー」を立ち上げ、2019年にはサステナブルな自然素材を使ったシューズを販売する米オールバーズ(Allbirds)のコピー商品を、半額近い値段で売り出して話題となった。
また、ファッションの「ボタンド・ダウン」や「メイ・アンド・グッドスレッズ」、「ソサエティ・ニューヨーク」など45の自社ブランドをターゲット顧客層や価格帯に合わせて展開。2020年時点で、24万3000点の商品を扱っていた。
こうした「攻めの姿勢」の背景にあったのが、同社の創業者であるジェフ・ベゾス前最高経営責任者(CEO)が立てた野心的な目標だ。米ウォールストリート・ジャーナル紙のアマゾン担当名物記者であるデイナ・マッティオリ記者によれば、数年前にベゾスCEO(当時)は社内会議で次のように発言したという。
「(米小売大手でアマゾンのライバルである)コストコのPBである『カークランド』を見てみろ。コストコの売上全体の25%以上をたたき出しているではないか。なぜ、うちではそれができないのか。なぜわが社ではPB売上が全体の1%しかないのか」(図)
この叱咤が、PBへのさらなる積極攻勢につながった。そしてアマゾンは「2022年までに、PBを売上全体の10%にする目標を立てた」とマッティオリ記者は明らかにした。
PB売上「目標10%」に遠く及ばなかった、残念すぎる理由とは
アマゾンは目標に向けて懸命に努力したが、その積極攻勢も実らず品目数の削減という決断に至った。その要因の1つがPB商品売上目標の大幅な未達だ。
PBブランドの売上は2022年になっても全体の10%に達するどころか、1%のままであった。プライム会員数が1億7200万人存在し、4,698億ドルの売上(2021年)をたたき出す中での1%であるから、決して小さくない数字だ。それでも10%という目標には到達しなかった。
先述のマッティオリ記者によると「目標は未達のままだった。代わりに、売れない商品の在庫が積み上がり、それらの多くをセール価格で売らなければならなくなった」のだという。
なぜこうした残念な事態に陥ったのか。たとえば、ベッドやバスルーム用品のPBブランド「ピンソン」は、2017年の売上が前年から50%も下落した。なぜなら、もう1つのPBブランド「アマゾンベーシック」のベッドやバスルーム用品の売上が50%伸び、共食いを引き起こしてしまったからだ。乾電池から女性向けドレスまで幅広く、PBブランド全体を俯瞰(ふかん)して統合運用する戦略が欠如していたように見える。
アマゾンはお買い得感を武器に、「全国ブランドへの信頼による購買行動」を、「アマゾンへの信頼による購買行動」に置き換える作戦を立てたが、一部商品を除き、奏功しなかったわけだ。この理由については、後ほど分析する。
【次ページ】品目数削減の「もう1つの背景」とは、PB戦略はどうなる?
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