- 会員限定
- 2022/01/18 掲載
アマゾンも分割?店舗とECで分社化?米小売業で「企業分割」議論のワケ
連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
脱コングロマリットへ、GEや東芝など相次ぐ
有力な成長企業が、本業の関連事業や「将来の飯のタネ」候補の事業を保有し、総合メーカー化を進めることは、ビジネスリスクの分散に役立つと言われ、20世紀の大半を通して実践されてきた。コングロマリット化では、一部の事業の収益悪化をほかの事業の高収益でカバーすることで全体の経営を安定させ、さらには本業の信用力を使って低コストでの資金調達を可能にするというメリットもあった。GEや東芝はそのようにして多角化した名門の代表例であり、往時は高い収益と影響力を誇った。時価総額は膨れ上がり、投資家にとっての価値を増大させる優良企業でもあったのだ。
しかし、一部のコングロマリットでは、東芝のような企業統治の失敗や、GEにみられた経営資源投入戦略の誤りのように、巨体がかえって迅速な経営判断を妨げていた。各部門の経営資源の奪い合いや管理部門の重複による高コスト体質、「巨樹の安定」ゆえの過度のリスクテイキング、市場変化の見落としなどの矛盾が露呈するようになった。
そのため、投資家の間ではコングロマリット化に関する過去の常識が覆りつつある。そうした中で、「それぞれの分割会社が専門・得意分野に集中し、最高のパフォーマンスを挙げ、分割後における各単体での企業価値の合計が分割前のそれを上回る環境の整備」を狙った企業分割やスピンオフ(分離)が注目されるようになってきた。株主にとっては、各新会社の事業の詳細な情報が入手しやすくなり、より的確な投資判断につながるメリットも指摘されている。
かくして東芝はインフラサービス、POSシステム、各種デバイスの3会社に、またGEは航空、エネルギー、ヘルスケアを担う3つの会社に分割されることになった。また、ジョンソン&ジョンソンは有力な絆創膏ブランドの「バンドエイド」や、市販鎮痛薬の代表格である「タイレノール」、薬用マウスウォッシュの「リステリン」などを擁するコンシューマー部門と、医療機関向けに新型コロナウイルスのワクチンを含む薬剤や医療機器を販売する製薬部門に2分割される。
次は「アマゾン」「マイクロソフト」が企業分割を決断?
こうした流れを受け、ウォール街では、「次の分割はどの会社か」という候補探しも始まっている。米投資サイトの「モトリーフール」では、アナリストの座談会で予測が行われ、世界的化学・電気素材メーカーであるスリーエム(3M)、著名投資家のウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイをはじめ、テック大手のマイクロソフトやアマゾンの名前が挙げられた。このうちアマゾンについては、EC部門とクラウドのAWS部門の分割が、米国内で高まるIT大手の分割論の趣旨に沿うだけでなく、従前から一部投資家たちが「アマゾンは分割した方が、それぞれの部門からの投資リターンが増大化する」と唱えていたこともあり、2022年にはさらなる議論が進む可能性がある。
マイクロソフトのケースはさらに具体的だ。米経済専門局CNBCは1月11日、マイクロソフトコンシューマー・コマースグループのゼネラルマネージャーであったベン・スリブカ氏へのインタビューを放映。その中でスリブカ氏は、「マイクロソフトは本体にAzureを中心とするクラウド事業を残し、オペレーティングシステムのWindowsおよび生産性サービスのOffice事業をスピンオフすべきだ」と主張した。同氏は、社内での経営資源の奪い合いで成長分野であるAzureの足が引っ張られることを懸念材料として挙げた。
また、米ウェルズ・ファーゴ証券のアナリストであるマイケル・タリン氏は、「マイクロソフトのAzureの市場シェアが2028年にアマゾンのAWSを抜く」と予想しており、マイクロソフトが分社でクラウドに専念する未来図は支持を増やす可能性がある。
【次ページ】百貨店「メイシーズ」の判断が全米の注目を集める理由
関連コンテンツ
PR
PR
PR