0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
ロシアのプーチン大統領が仕掛けたウクライナ侵攻が、GAFAなどのテック大手を念頭に置いたIT規制法案に思わぬ影響を与えている。巨大IT企業による自社製品・サービスへの優遇を防ぐため、通常であれば対立することの多い民主党と共和党の議員たちが珍しく手を組んだ。この大型法案の成立に向けて米議会の審議が加速した直後のウクライナ戦争。サイバー攻撃やテック開発競争など、米国内で対ロシア、対中国への警戒感が強まる中で、「テック大手を規制し過ぎれば米国の技術力がそがれ、競争力を失う」との声が高まる。法案は今や、骨抜き法案に変貌するとの見方が強まっている。
IT市場独占を防げ!「GAFA」を狙い撃ち
米国では過去数年間にわたり、(1)テクノロジーで時代にそぐわなくなった反トラスト法の改革、(2)消費者の個人情報の保護強化、(3)サイバーセキュリティの強化、など待ったなしの課題について、民主党と共和党が時には意見を対立させながらも、協力し合って議論を進めてきた。
そうしたIT規制強化に向けて進んできた超党派の努力が結実したのが、「米国イノベーション・選択オンライン法案」だ。バイデン政権発足1周年の今年1月20日に上院司法委員会を通過し、上院本会議の審議へと移る。下院でも同様の法案で本会議の採決を待つばかりになるなど、勢いがつき始めていた。
具体的にこの法案では、「月間ユーザー数が5000万人以上、時価総額が5億5,000万ドル以上のITプラットフォーマーが自社の製品やサービスを優遇し、競合企業に不利益を与え、プラットフォーム上の競争に重大な損害を与えるような形で利用企業を差別すること」を禁止する。この要件から、アップル、メタ(旧フェイスブック)、アルファベット(グーグルの親会社)、アマゾン、そしておそらくマイクロソフトを狙い撃ちにしたことは明らかだ。
加えて、法案によれば、複数の業種をまたがって権力を有する支配的なプラットフォームがほかのサービスとの相互運用性を妨害することは違法となり、さらには他社のデータを活用して競争優位性を高めることも禁じられる。それにより、中堅・中小企業やスタートアップ企業などを含めた競争が生まれ、製品やサービスの価格が下がり、より良い発明が促進され、消費者の選択肢や受益も広がるとのロジックだ。
最近の各種世論調査においては、民主党支持者と共和党支持者の双方が一貫して「テック大手は巨大な政治力を持ち過ぎるようになった」「独占的地位が心配だ」「IT大手の個人データ取り扱いに懸念がある」などと回答している。
米リベラル系シンクタンク「Data for Progress」が1月下旬に実施した全米1300人への調査では、民主党支持者の69%、共和党支持者の46%が米国イノベーション・選択オンライン法案に賛成だと回答している。依然、有権者による法案への支持は高いのだ。
GAFA猛反発、「“中国”が得をする」
しかし業界からは、「アンフェアなやり方を禁ずる」など、当該法案の文言が曖昧過ぎるとの指摘が相次いだ。適用が恣意(しい)的になる可能性があり、運用次第では従来のテック大手のビジネスモデルや収益の根幹を否定して弱体化させることになりかねず、最終的には消費者にサービスの劣化や値上げなどの形でツケが回るとの懸念の声が上がった。
グーグルでグローバル問題担当社長兼最高法務責任者を務めるケント・ウォーカー氏は1月18日付のブログで、「米テック大手がイノベーションに関して連邦政府の認可が必要となれば、そのような規制を受けない中国など外国のIT企業を利することとなり、結果として中国企業が米消費者のデータにより多くアクセスできる状態を作り出してしまう」と主張した。
ウォーカー氏はさらに、「法案成立を急いでイノベーションを破壊してしまえば、米国のテクノロジーの優位性が失われる。米議会は成立を急がず、時間をかけて議論を深めるべきだ」と訴えた。業界は、中国ライバル論・脅威論で法案の進行を遅らせようとしたのだ。
その影響で、上院司法委員会で賛成票を投じた議員たちの一部が、「自社サービス・製品優遇の禁止条項を大幅に弱めて修正しなければ、本会議で再び賛成しない」と言い始めた。そのため、実際にいくつかの修正案が提出されている。
このようにして、冷戦的な思考によってIT規制論が押し戻された。そのタイミングでロシアのウクライナ侵攻が始まったのである。これらの動きが米国内でのIT規制の論調を弱め、GAFAをはじめとしたテック大手にとっては思いがけない追い風となっている。
【次ページ】「GAFA規制」の動きは“ウクライナ侵攻”で具体的にどう変化した?
関連タグ