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- 2022/02/03 掲載
マイクロソフト対ソニーの「ゲーム戦争」、覇権奪取に“メタバース”が鍵を握るワケ
連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
マイクロソフトは「クラウド型ゲーム」で逆襲開始
サティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)率いるマイクロソフトは2021年、音声認識技術の米ニュアンス・コミュニケーションズを197億ドル(約2兆2500億円)で買収した。これをはじめ、同年だけで大小56社の企業を傘下に収め、クラウド型の生産性向上サービスを提供する企業としてさらなる成長を遂げた。しかし、今回のアクティビジョン・ブリザードの買収額は、2016年に子会社化したビジネス特化型SNSのLinkedIn(262億ドル、約3兆215億円)を大きく上回り、マイクロソフトとしては過去最高となった。アクティビジョン・ブリザード買収発表時の1株82ドルの時価に対して、プレミアをつけた95ドルの条件を提示したことからも、ナデラCEOがマイクロソフトの将来においてゲーム事業を重大視していることがうかがえる。
2021年にゲーム部門で163億ドル(約1兆8780億円)を売り上げたマイクロソフトの推計によれば、世界のゲーム人口は現在約30億人であり、2030年には45億人に急伸する見込みだ。
このうち、マイクロソフトはオンラインのXbox Liveプラットフォームのプレーヤー数が約1億人、サブスクリプション型ゲーム配信のGame Passは2500万人を擁する一方、アクティビジョン・ブリザードが各種ゲームで抱えるプレーヤー数は4億人に上り、同社の買収はマイクロソフトにとり有望な投資であろう。
また、対抗馬PlayStationでマイクロソフトを圧倒してきたソニーへの巻き返し策としても、非常に合理的なものであると市場関係者は見ている。まず、ソニーは前世代のゲーム機PS4を総計1億1680万台出荷したのに対し、マイクロソフトのXbox Oneは5050万台と後塵(こうじん)を拝し、新世代機もPS5に及ばない。
ところが、ソニーのサブスクリプション型ゲーム配信であるPlayStation Plusは2021年3月のメンバー4760万人から半年後の9月に4720万人へと微減傾向にあり、プレーし放題が売りのGame Passに押されているとみられる。配信と相性の良いアクティビジョン・ブリザードのゲームは、この「クラウド型ゲームで逆襲する」という戦略にうまく当てはまる。
さらに、マイクロソフトによるアクティビジョン・ブリザード買収の大きな狙いとして、揺籃(ようらん)期にあるメタバースの主導権を握ることが指摘されている。
当局の認可が得られれば、2023年にアクティビジョン・ブリザードの買収が完了する予定であり、マイクロソフトの顧客と収益の裾野を広げる意味では、満足な結果を出し得るものであろう。
ソニーが“過去最高額”で米ゲーム大手バンジー買収へ
一方、ソニーがマイクロソフトのアクティビジョン・ブリザード買収に対し、即座に巻き返しに出たことは注目される。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は米国現地時間の1月31日、Xboxのみでプレーできるカルト的タイトルの「ヘイロー」シリーズを開発した米ゲーム大手バンジーを、同社のゲーム事業で過去最大額である36億ドル(約4100億円)で買収することを発表した。興味深いことに、「テッククランチ」など米メディアの一部はこの買収の主目的を、メタバースを見据えたプラットフォーム強化であると推測している。事実、バンジーのピート・パーソンズCEOは買収発表に際して、「ゲームの世界は弊社の知的財産(IP)活用の始まりに過ぎない」と意味深な発言をしている。
このように、2021年から続くゲーム業界における大型M&Aの加速という流れの中で、メタバース覇権のバトルを繰り広げる2大巨頭マイクロソフトとソニーの、知財と人材の獲得をめぐるせめぎ合いは激しさを増してゆこう。
【次ページ】鍵は「メタバース」、マイクロソフトの思惑は?
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