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- 2025/03/11 掲載
生成AIがコンテンツビジネスを破壊? アクセンチュアが示す「価値を再定義」する3手法とは
新連載:アクセンチュア流 生成AI産業変革論
「生成AIを脅威と感じるか?」
「生成AIを脅威と感じるか?」。国内外の映像・音楽・ゲームなど、多岐にわたる領域で活躍しているクリエイター達にインタビューしたところ、「淘汰されない仕事はないが、AIは新しいことにチャレンジさせてくれる。新しいアイデアを生み出すことは代替されないと感じている」と印象的なコメントが得られた。生成AIの進化はすさまじく、“一定品質”の作業で生計を立ててきたクリエイターは脅威にさらされる可能性が高い。しかしながら、人の心を動かせるようなコンテンツは人から生まれるものであり、テクノロジーが発展してきたいつの時代も新しい表現やコンテンツは再発明されてきた。
本稿では生成AIの進化によりメディア・エンタメ・広告の各業界で今後起こる変革について、デジタルコンテンツやクリエイティブ制作に携わるプレイヤーや事業者に対する示唆をまとめた。
デジタルコンテンツ&クリエイティブ制作における4つの変化
まず制作現場に起きている大きな変化を4つ述べたい。変化の1つ目は「効率化」だ。プロの制作プロセスが徐々に生成AIを使う作業に置き換えられ、AIが精度の高い正解データを学習することによって、プロのクリエイターが納得するレベルでプロセスが効率化、半自動化される。
著作権や肖像権、ポリコレのチェックといった業務の時間が減り、膨大だった制作の時間が短くなることで、クリエイターはアイデアの着想や企画・ディレクションなどよりクリエイティブな上流工程にフォーカスできるようになる。
クリエイティブな工程でも、壁打ち相手やアイデアを具現化してくれる相棒として生成AIを活用しているクリエイターは増えており、発想から具現化までのスピードや精度は向上している。
たとえば楽曲の制作では、「Suno AI」のようなプロンプト(指示)を与えてつくる音楽生成AIツールを新しい楽曲のアイデア出しや作曲のアイデアをラフに書き留めるスケッチ制作に活用するケースも出てきている。「iZotope Ozone」というAIソフトウェアでエンジニアリングの要素が高いマスタリング工程をかなり高精度に自動化することもでき、こういった事例はプロの現場に浸透してきている。
ONE OK ROCKが、「AIによる未来のディストピアを、AIと共に創造する」をテーマにした新曲「Dystopia」のミュージックビデオを、生成AIを活用して制作したという事例は記憶に新しく、新しい表現手法としての広がりが期待できる。 TikTokの運営会社である中国のByteDanceが25年2月に発表した「OmniHuman-1」は、1枚の写真からリアルな動画を生成できる生成AIであり、動画生成のハードルをさらに下げるであろう。
2つ目は「民主化」。プロが制作するノウハウが詰まった生成AIが解放され、誰でも“一定品質”の制作やN次創作(二次創作をもとにした派生作品の連鎖が続くこと)ができるようになり、自らのアイデアを具現化できると生産者(プロデューサー)と消費者(コンシューマー)の架け橋である「プロシューマ」が台頭してくる。
この民主化の流れが“コンテンツ制作の内製化”につながる。広告主が広告代理店の手を借りずに、自らクリエイティブ作品を制作して、ターゲティングとパーソナライズをかけあわせたマーケティングが可能になる。
3つ目が「個別化」だ。さまざまなコンテンツが、チャネルやユーザーのモードに合わせて最適化されたものが個別に自動生成され、ユーザーに届けられるようになる。いわば“コンテンツのマスカスタマイゼーション”だ。
ユーザーの反応に応じて、よりインタラクティブ性を持ったコンテンツが生まれる。エンタメコンテンツに関してはたとえば、スポーツ観戦において推しの選手のゴールシーンや名場面のみを生成AIがキュレーションして届けてくれるようなパーソナライズなコンテンツが生まれ、エンタメの消費の仕方が変わり得る。
広告やメディアに関しては、誰が見ても同じではなく、生成AIがパーソナルエージェントのように対話しながらWebサイトから興味関心のある情報を抽出してくれるようになる。
Google Chromeのニュースフィード「Google Discover」は、高度な機械学習とユーザーデータ分析を基にしたパーソナライズ機能を持つ。
過去に検索した語句やデバイスから取得した位置情報、インターネットの利用パターン、YouTubeやGoogleマップなどでの行動から類推したおすすめ記事はかなり精度が高く、読者のページ滞在時間が通常よりも長いとみられる。
Google検索に挑むAI検索エンジン「Perplexity」もAI生成型のニュースキュレーションを展開しており、ポッドキャストまでAI生成している。まさに自分専用のメディアコンテンツが個別で生成される未来図が予想できる。
4つ目が「自走化」。さまざまな顧客との接点で、ニュースキャスターなどの演者自体がAIでつくられる。中国のECプラットフォーム「淘宝(タオバオ)」などは、AI生成インフルエンサーが24時間365日おすすめ商品の売り込みをし続ける。
技術の発展により、デジタル・クローンを生成するのに数分の映像しか必要ではなくなり、基本的なクローンは十数万円で作成できるようになってきた。また、自走化の文脈では、外部からの指示を最小限に抑えつつ、複雑な目標を多様な環境下で達成できるAgentic AI(AIエージェント)の進化には注目すべきだろう。
複数のAIエージェントが役割ごとに組み合わさることによって、エンタメ領域におけるDXが一気に進む可能性がある。たとえば、アーティストとの交流を楽しむ場であるファンダムの拡大に向けて、ファンやファンコミュニティオーナーのエージェント、アーティストの発掘や育成、宣伝等を行うA&Rやプロモーターのエージェントを対話させることもできる。
施策の立案やPoC(Proof of Concept:概念実証)によるシミュレーションで一番有望な施策を半自動で実行できれば、エンタメ界のマーケティング戦略は大きく変革するだろう。 【次ページ】コンテンツ&クリエイティブ制作の「価値を再定義」する3つの方法
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